新型コロナの影響によって休業を余儀なくされたり、売り上げが激減し、窮地に立たされている個人事業主や中小企業は少なくない。その救済策として導入された持続化給付金だが、“制度の甘さ”をつき不正が横行している。その実情に迫った。


◆渋谷の貸会議室で催された給付金の受給セミナーに潜入


「みなさんが申請できる給付金や補助金は持続化給付金だけではない。3000種類もあるんです。先ほどもセミナーに参加した方から『総額850万円を獲得しました!』と連絡が入ったばかりです」


 渋谷駅近くの貸会議室。20人ほどの聴講者を前に、分厚い金時計をつけた角刈りの男は、そう畳みかけた。フェイスブックで広告掲載されていた「会社員や主婦も申請可能!」と謳う「新型コロナ関連給付金・補助金勉強会」に記者が潜入した際の一幕だ。


 会場では税理士や行政書士、社会保険労務士などが出演するビデオが流された。そこで彼らは「会社員や無職でもやり方次第で高額受給できます」と息巻く。


 その後、聴講者は一人ずつ別室に呼ばれ、3人のスタッフに「わが社のサービスなら、士業の先生方に相談し放題で50万円!」とその場での契約を迫られた。


 セミナー後に調べると、ビデオに出演していた人物のうち、税理士と行政書士については実在することが判明。両者の事務所に電話すると、セミナーの主催団体との関係を認めたうえで「違法なことは何一つしていない」と主張した。


◆悪徳士業が不正受給指南


 持続化給付金の対象は、中小法人もしくは個人事業主だ。申請には、税務署に申告済みの前年の確定申告書の控え(税務署の収受印付き)の提出が求められ、事業性のある収入(事業収入および雑収入、業務委託としての給与収入)があることが確認される。前年の事業性収入の合計(年間売り上げ)から、基準月(前年同月比で売り上げが半減以下となった任意の月)に12をかけた数字を引いたものが、給付額となる(上限は法人200万円、個人事業主100万円)。


 こうした原則をかいくぐり、会社員や主婦に対して不正受給をサポートする悪質業者が増えている。「行政書士の指南で持続化給付金を受給した」と明かすのは、都内在住の会社員だ。


「SNSで見た『会社員でも給付金ゲット』という投稿に連絡すると『ある会社からあなたに昨年100万円のコンサルフィーを支払ったことにするので、事業収入として確定申告してください。100万円分の経費も同時に計上すれば納税額は増えない。確定申告書の控えさえ送ってもらえば、あとはこっちでやります』と指南された。先方は行政書士を名乗り、事務所もあったので、信用して30万円を振り込むと、3週間後に無事100万円が振り込まれた」


 つまり、昨年度の確定申告書に架空の事業収入を計上し、今年は打撃を受けてそれがなくなった、という体にしているのだ。


◆キャバクラ嬢が全員申請。一人20 万円をピンハネ!


 政府は2020年度の第一次補正予算で、持続化給付金に2・3兆円もの補正予算を組んだ。この対応に異論はないが、理念に反した申請が横行しているのも事実だ。


 持続化給付金の不正受給を取材しているフリーライターの奥窪優木氏も、悪徳士業の実態についてこう明かす。


「都内のあるキャバクラグループは、顧問の税理士が悪知恵を働かせ、所属するキャバ嬢全員に不正受給させたそう。それまで所属キャバ嬢には給与支払いをしていたんですが、それを昨年から業務委託だったことに解釈変更し、キャバ嬢を個人事業主として扱い、確定申告も代行したとか。キャバ嬢のほうも、何もせずに100万円が振り込まれたものだからホクホク顔。ただ、申請代行費として、一人当たり20万円を差し引いたそうです。このグループは総勢60人近くいたので、約6000万円が不正受給されたことになる。彼女たちから上前をはねた1200万円は、社長と税理士が山分けしたんでしょう。このように、持続化給付金をしゃぶり尽くしてやろうと言わんばかりの悪徳士業が暗躍している」


◆非常時給付金の難しさ。税務署のチェックは?


 持続化給付金の給付規定よると、こうした不正受給が発覚した場合、「不正受給を行った申請者は、前項第2号の給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額を支払う義務を負う」としている。火事場泥棒への罰則としては軽すぎるように思える。


 また、確定申告の内容の偽装や勝手な解釈変更は、税務署からも睨まれそうだが……。元国税庁調査官で税理士の松嶋洋氏は話す。


「税務署が関心あるのは、納められるべき税金が正しく納められているかどうかだけ。前年の売り上げ水増しや、給与所得から事業所得への解釈変更なども、課税額さえ減らなければ調査に乗り出すようなことはないでしょう」


 やはり非常時の給付金は、性善説でばらまくしかないのか? 前出の奥窪氏はこう指摘する。


「個人事業主に限っては“希望者全員に一律給付”という選択肢もあったのでは。それなら少なくとも他人に給付金の不正受給を指南して上前をはねるような輩は排除できたはず」


 言うまでもなく、余分にばらまかれた持続化給付金のツケを支払うのは我々国民である。近い将来、“コロナ増税”となって返ってくるかと思うと、やり切れない。


◆「実務担当は素人が大半」持続化給付金の危ない審査現場


 制度の網目をかいくぐるかのように続出する持続化給付金の不正受給。申請審査の段階で、不正を洗い出せないものなのか……。


 しかし、6月11日付の東京新聞が報じた記事を読めば、その期待が持てないだろうことは明らかだ。以下にその一部を引用する。


「審査を担当する人たちは複数の派遣会社に所属している。勤務は昼と夜に分かれ、時給は千〜二千円台。(中略)豊島区の(審査)拠点で働く女性は、登録先の派遣会社から案内を受けて五月中旬から審査業務にあたっている。『経理の用語も何も分からない素人が大半で、本当に大丈夫なのか』と話し『罪悪感』すらあるという。申請数に応じて審査基準が変わり、現場は常に混乱していると明かす。審査に必要な書類の画像が不明瞭な場合など、『SV』と呼ばれる上の立場にあたるスーパーバイザーに判断を仰ぐも、彼らも派遣で分からない場合が多い。『チラシの裏やふせんに走り書きしたような記録が通った時は驚いた』という」


 こうした状況で、現時点で200万件に上る申請書類をくまなく精査できるとは到底思えない。前出の松嶋氏はこう提言する。


「納税者に寄り添って仕事をする税理士の立場からすれば、税金を原資とする持続化給付金の不正受給は徹底的に告発してもらいたい。しかし現実的な問題は、経産省にチェック能力がないこと。頼みの綱は国税庁ですが、経産省とは仲が悪いので不正の抑止力になりえていません。ただ、この非常事態にそんなことは言ってられない。調査官を申請審査の現場に派遣するなど、国税と経産省は協力するべき。新型コロナの感染を避けるため、国税による新規の税務調査はストップしているので、調査官は暇なはずですし」


 持続化給付金事業で経産省と国税庁が手を結んだというニュースだけでも、不正受給を躊躇させる一定のインパクトがありそうなのだが……。


【奥窪優木氏】

フリーライター。上智大学経済学部卒業。国内の社会問題から世界のゲテモノ食事情まで自らの興味の赴くままに取材


【松嶋 洋氏】

税理士。東京大学卒。国税調査官を経て現職。近著に「それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい」(金融ブックス)

引用元
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社>
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