05/10: 私は中学三年生そして・・・子供が居る(後編)
死んじゃうのかなァ・・・?
私は成人式もまだ迎えていない未成年だ
それが、もう死ぬかもしれない
原因不明の病気を抱えている
そんなに強く生きられるはずが無い
私だって本当ならばまだ友達と遊んでいる時期だ
私は意識が無くなっていった
幸はね
小さなネ
子供なの
幸はね
小さなネ
子供なの
幸は小さな声で歌っていた
「幸ちゃん何の歌?」
若い看護士が聞く
幸はにっこりと笑い画用紙を取り出した
「ママと幸のお歌」
幸は八重歯をくっきりと除かせニカっと笑う
「そうなんだ。」
「ママが幸の側に居てくれるように」
幸はそういって視線をそらした
「大丈夫よ、幸ちゃん」
看護士は幸の横に座る
「ねーー、お姉ちゃん」
幸は呼びかける
「なぁに?」
「ママ死なないよね」
幸は小さくそう聞く
「大丈夫だと思うよ」
「ママ、幸の事置いてかないよね・・・」
幸はグっと唇をかみ締める
「ママ、幸の事嫌いになっちゃったのかなァ?」
幸は看護士の顔を見る
「そんな事ないよ。大丈夫、お母さんは幸ちゃんの事
大好きだから」
看護士はそういって笑う事しか出来なかった
何しろ亜紀の病気は原因不明の病気
目まで悪くなってしまったらこれから何が起きるのか
分からないから・・・
寝たきりになってしまうかもしれない
最悪の場合も考えられる
死んでしまうかもしれない
こんなに、小さな子供が
一度に二人の最愛の人を失ってしまった
悲しくても泣かない子のこの強さ
きっと救われる事は無いのかもしれない
この子は
幸せになれるのだろうか?
幸が居るよ
側に居るよ
だから、泣かないで
だから、無理しないで
頑張るから
側に居て
居なくならないで
小さな幸の小さなわがまま
私は一面花畑に居た
ここは時間の流れは感じさせず
暖かい気持ちにさせる
ここにずっと居ても良いかな
そんな事を考えてしまうような世界
「亜紀」
湖の向こう側に人が居るのが分かる
「誰?」
「充だよ」
湖の向こうで手を振っているのが分かる
「充・・・」
私はゆっくりと近づく
「それ以上は来ちゃ駄目だよ」
充の悲しそうな顔が見える
「どうして?話がしたいの」
「君はまだ生きなきゃいけないんだ」
充が泣きそうな声を出す
「私も疲れちゃった。もう、ここで終わりにしたい」
私はそういって湖に足を踏み入れた
ピチャ
「駄目だよ」
充の声が響く
それでも、私は最愛の人に会いに行きたい
「ねぇ、好きといって
私を抱きしめて・・・」
私はピチャと水しぶきを上げ
湖にひざをつける
ふわっと暖かい感覚が体を包むのが分かった
「ここに居るよ」
「充・・・」
「もう、無理しなくて良いんだよ
こんなにキミの事を
愛してるんだから
不安にならなくていいよ
辛いなら、僕も手伝うから
一人で抱え込まないで
愛してるよ
幸せにしてあげられなくてゴメン」
充はそういってフワっと私からどいた
「亜紀には守らなきゃいけないものがある
僕らの娘。幸を
僕が守れなかった分も
幸の側に居てくれ」
充はそういって笑った
私はゆっくりと目を覚ました
「助かった」
私は病室に居た
「ままぁーーーーー」
幸が私に近づいてくる
「あなたは、2日間程眠ったままだったんですよ」
看護士さんが笑って言う
「充の夢を見たんです」
私がボソッと言う
「じゃぁ、パパがママの事助けてくれたんだねぇ」
幸はニコニコと笑っている
「うん。そうみたい」
私の病室からは窓は見えないが
きっと今は綺麗な空が広がっているんだろう
私はドタバタとしている病室内を見渡す
薬の匂いにはなれてしまったので
あまり感じない
私が大きく深呼吸をした時だった
「亜紀ちゃん」
そういって春樹が現れた
「春・・・どうしたの?」
私がはぁはぁしている春樹を見つめる
「良かった…戻ってきてくれたんだね」
そう言うと春樹は明るい顔をした
「うん。ただいま」
私が笑って答えると
「身内の方ですよね、ちょっと良いですか?」
と医者が春樹を連れて行ってしまった
何故か明るいはずの病室が暗くなる
作り笑いみたいな・・・
きっと、これは気のせいなのだろう
私は自分でも分かるくらいの作り笑いしてたし
きっと、それがばれてるんだろう
「亜紀ちゃん、もう退院出来るって」
春樹も作り笑いだろうか?
「なら、今すぐがいい」
私は腕をぶらぶらとさせ元気をアピールした
「分かった・・」
「じゃあ、帰る準備しとくね」
「じゃあ、先生に言ってくる」
そういうと春樹はまた出て行ってしまった
「ままぁ、お家帰れるの?」
幸がベッドに座りながら聞く
「帰れるよ」
「良かったねぇ」
幸はニコニコと笑っていた
「そうだねぇ」
私は大きなバッグに荷物を全て詰め込んだ
「よし、完璧」
私は幸の横に座った
「まま、寒いねぇ」
幸が手をこすり合わせて言う
「もう、12月だもんね」
「サンタさん来るかなぁ?」
「幸は良い子だから来るよ」
私が幸の頭をグシュグシュとかき回した
「いやぁーーーー」
幸は笑いながら頭を抑えた
「亜紀ちゃん、書類かいてきたし帰って大丈夫だって」
春樹が笑って言った
「後、竜ちゃん呼んだから、車持ってきてくれるって」
春樹はそういった
竜ちゃんとは私の兄。今20歳だったはずだ
「あの人、車の免許持ってたんだ」
私が笑って言うと
「そうみたいだね」
と春樹も笑っていった
私は竜ちゃんの車に揺られて家に帰るところだった
外は大分真っ暗になっていた
時間は何時なのだろう
「亜紀、何処か行きたい所アル?」
竜ちゃんが後頭部席に座ってる私に聞く
「え?なんで?」
「いや、ずっと病院内だったし・・・」
「空が見たい」
私は助手席の春樹に向かっていった
「空?」
「そう、綺麗な空」
私が微笑む
「それなら」
といって竜ちゃんは進んでいった
「ママ、お腹空いたね」
幸が私の手をつないで言う
「そうだねぇ」
私は幸の頭をぐちゃぐちゃにする
そして
はぁっと息を吐いた
白い煙はたちのぼら無かったが
その代わり窓を白くした
「幸、見てみて」
私は白くなった窓に幸と書いた
「あーーーすごぃ」
幸は私のひざの上に上ってグルグルと丸を描いた
「まま、サチ、竜ちゃん、春ちゃん」
幸は小さな声で名前を書いていった
「なに、幸?」
竜ちゃんがミラー越しの顔をのぞかせる
「竜ちゃん、って書いたのぉ」
幸は顔をのぞかせる
「そっか」
そう言うとまた車を走らせた
私は段々うとうとして来るのが分かった
あれだけ病院で手術を繰り返してたら
疲れが溜まってるのも仕方ないだろう
私はため息をひとつ付き
幸にもたれかかる様にして眠ってしまった
「ちゃん」
「ママ」
「亜紀?」
声が聞こえる
「ん・・・ん?」
「着いたよ」
春樹がそういってにっこりと笑う
「ママ、早く行こう」
私は幸に手を握られそのまま外へ出た
「ほら、亜紀」
劉ちゃんが指差す空はキラキラと光っていて
すごく綺麗だった
「綺麗・・・」
私が空を見つめて言うと幸が竜ちゃんの元へといってしまった
「亜紀ちゃん」
そういって春樹が私の横に来た
「春」
「亜紀ちゃん、病気・・・」
「知ってるよ。分かってる」
私は空を眺める
「もう、長くないんでしょ」
私が春樹を見つめる
春樹は何も言わずに下を見る
「春、空見てみなよ」
春樹はゆっくりと上を向く
ぱぁぁっと広がる綺麗な空が目に入る
「生きてるなら、空見て
私は、今生きてるって実感したいの」
私は優しく笑う
「亜紀ちゃん…」
「私は、今死んでも後悔しないよ
こんなに綺麗な空が見えるから
私は、生きてるんだよ」
「亜紀ちゃん
亜紀ちゃんは、まだ生きていたい?」
春樹がゆっくりと私を見る
「どうだろう」
私が答える
「ここに薬があるんだ」
春樹はそういってポケットから小瓶を取り出す
「うん。」
「生きたいならこれ飲んで」
そういって春樹は薬を押し寄せた
「デメリットは?」
私が聞くと春樹は黙って下を向いた
そして、小さく言った
「ずっと、植物状態のまま」
春樹の言葉が大きく聞こえた
私は、幸せだよ
「亜紀ちゃんが決めなきゃ駄目だよ」
「これ、飲まなかったらどの位で死ぬの?」
私は小瓶を眺めながら聞く
「分からないけど、明日持つか分からないって」
春樹は下を見る
「でも、植物状態で治るかもしれない」
春樹は言葉を付け足した
「そう、一応もらっとくね」
私は薬をポケットにしまった
「ママーーー」
幸がキラキラと光るものを輝かせながら走ってくる
「わぁ!何それ?」
私はしゃがんで聞く
「これねぇ、落ちてたの。キラキラして綺麗」
幸はそれを私に渡した
「だから、ママにあげる」
幸はニィーーーっと歯をむき出しにして笑った
「ありがとう」
幸からもらったそれはピンク色にキラキラと光っていた
「亜紀」
「何?」
私は、竜ちゃんに手招きをされたので
春樹に幸を預け
竜ちゃんの元へと向かった
「お疲れ」
「うん?」
私は、だんだん目が慣れてきて
回りの景色を確認する余裕が出来始めてきた
奥の方で水が流れてるのが分かる
「春に聞いた?」
竜ちゃんが足を止め私の顔を見る
「聞いた」
私は石を蹴飛ばす
「そっか、」
「そんだけ?」
「嫌、うん。まぁ・・・
どうするのか、決めたかなって」
「うん。決まってるよ」
私は石をまた蹴る
コン
「そっか」
きっと、この時竜ちゃんには私がどうするか
分かって居たんだと思う
「何かあったら言えよ」
「うん。」
「一人になりたい?」
竜ちゃんに聞かれ私は小さく頷いた
「無理するなよ」
そう言って竜ちゃんは私のほっぺたをギューっと掴んだ
「うん、ありがとう」
私はドクンドクンとする心臓を押さえながら
薬のふたを開ける
私は空になったビンを遠くに投げる
カン
ぴちゃ
空気の無い音がして水に入るのが分かった
「行こう」
私はみんなの待っている方へと向かって歩き出す
これが、私の決めた人生
どんな事があろうとも
充
お母さん
私は、まだまだやらなきゃいけない事があるよね
でも、時間が間に合うかどうか分からないよ
やだ
私は、守らなきゃいけないものがあるよ
私は家に帰り紙を取り出した
「幸ちゃん、来てー」
私が隣の部屋で着替えている幸に声をかける
「なぁにぃ?」
「これ、覚えてて」
私がそう言ってその封筒をひらひらとさせる
「分かったよォ」
そういって幸はズボンを履いた
「ありがと」
私はそれをコタツの上に乗せる
その封筒は3枚
私は布団を敷き幸を眠らせた
「幸・・・」
「バイバイ」
幸がつないでいた指は朝にははずされていた
「ママァ?」
幸は起き上がり部屋を探す
お風呂場トイレ
お母さんの姿は何処にも見当たらない
「マ・・・マ」
涙が目頭を熱くするのが分かる
「幸、泣かないよ・・・」
幸はぐっと唇をかみ締める
ピンポーン
幸は小さな体で外をのぞく
「幸!竜だよ!!開けていい?」
「竜ちゃん・・・?」
「幸ちゃん、春樹だよ」
そう言うとドアがガチャと音がしてあくのが分かった
「竜ちゃん、春ちゃん」
幸は一歩下がり二人を部屋に入れた
「幸、おいで!行くよ」
春樹が両手を伸ばし幸を抱こうとする
「だ・・・」
「ぇ?」
「やっだよぉ・・・ママ、来るまで待つんだ」
幸は春樹から少し離れた
「ママは病院に居るんだよ」
「ママ、幸の事置いてかないって言ったもん」
幸はそう言って
ペタンと床に足をつけた
「幸・・・」
春樹は腕を戻した
「春・・・」
竜ちゃんが春の肩を押す
連れて来いといいたいのだろう
「幸、ママが呼んでるから、行こう」
春樹は靴を脱ぎ部屋に入ろうとした
かすかに幸の背中が震えてるのが分かった
「ねぇ、春ちゃっん」
「・・・・な・・・なに?」
ゆっくりと幸が振り向く
「幸、幸、ママが戻ってくるって信じたい」
幸の目には涙が沢山溜まっていた
「ママ、幸から離れないって言ったもん。」
そう言うと幸は声を上げて泣き始めた
幸は泣かない
絶対泣かない
いつも笑っていたのに
それが、この子にとって
どれだけ酷だったのか
どれだけ、辛かったのか
父親と
そして母親までもが
自分の愛するものを二人も失ってしまった
この子は
どれだけ、辛かったのだろうか?
幸が一通り泣き終わり
どうして良いのか分からなかったが
春樹が先に動いた
「じゃあ、ママに会いに行こう」
きっと、この言葉は必要ないのかもしれない
幸は春樹の元に歩いていった
亜紀はどちらを取ったのか
どちらにしても、少女は
少女を待っているものは悲しみしかなかった
春樹は幸を抱きかかえ車に揺られながら
病院へと向かった
車の中は無言で幸はずっと外を眺めていた
「雪」
幸が小さくボソっと言う
「え?」
「雪が降ってる」
幸はそう言って春樹を見た
「うん。そうだね」
僕はパラパラと降る粉雪を
ずっと、眺めていた
雨でもなく
雪でもない
粉雪
車を止め外に出ると
ふわっと粉雪が舞うのが分かった
「綺麗だね」
幸が春樹に抱かれて言う
「そうだね」
「ママ、雪大好きだから」
幸はそういって粉雪を掴む
だけど、それは手に触れてすぐに溶けてしまった
「行こう」
竜ちゃんの声に続いて病院へと入っていった
受付に行くとすぐに二階へと案内された
別館という事で通路を進む
段々薄暗さや活気がなくなってくる
あるのは、湿気と・・・
看護士さんに案内され一番奥の部屋へと入っていった
中に入ると薄暗さが目立ち
薬の匂いはしなかった
そして、奥の方に窓があるだけだった
中央にベッドがひとつポツンと置いてあった
「山川さんの家族の方ですね?」
医者がそう言う
「はい。」
竜ちゃんが毅然とした声で答える
「山川亜紀さんですけど」
そう言って医者は下を向く
「先ほど。お亡くなりになられました」
やはり、僕達の期待していた答えではなかった
「そう・・・っですか・・・」
「彼女は、薬は飲まずに捨てたそうです」
医者が鼻声になる
「私達はこういう現場を数回立ち会っているのですが
彼女は・・・」
「どうしたんですか」
春樹が幸を抱く腕をギュっと強くする
「彼女は、あなた達に伝えて欲しいと」
そういって医者は息を呑む
「ありがとう」
「彼女はそう言って微笑んで亡くなられました」
亜が選んだのは死だった
19歳のまだ、小さな亜紀が選んだ道は
二つしかなく
どちらもいばらの道だった
彼女が選んだ人生
小さな子供の不幸せな人生
いいえ、彼女は幸せでした
それが、彼女の最後に現れているから
幸は小さな腕を強くして
母親の元へとゆっくりと進む
彼女の最後の姿は
きっと、幸せだったのだろう
「ママ」
幸は母親の隣に行く
「ママ、ありがとうございました」
幸はそういって頭を下げた
「ママ、幸の事産んでくれてありがとう」
幸は今度は泣かなかった
いつもはえらそうにしている竜ちゃんの肩は震えていた
春樹はゆっくりと幸を後ろから抱き寄せる
「もう、良いんだよ」
それでも幸は頭を上げない
「ママは幸と居れて幸せだったはずだよ」
今の春樹にはこれしかいえなかった
雪の降る日
亜紀は静かに息を引き取った
その後幸と家に戻り亜紀が書いた手紙を
幸の手から受け取った
竜ちゃんへ
ありがとう、最後のわがまま聞いてくれて
竜ちゃんは優しいお兄ちゃんだったね
私が、選ぶ道もきっと分かっていたと思うの
ごめんなさい
ありがとう
最後のわがまま聞いてもらえる?
幸の事、私守れなくなっちゃった
だから、竜ちゃんお願いできないかなァ?
亜紀より
春へ
もう、めそめそ泣いてないよね
ありがとうね
幸は春にはなついてたから
私が妊娠しても春は受け入れてくれたよね
春のあの言葉に私は救われたよ
帰ってきて良いって
私の居場所はきちんとあるんだなって
実感できた
春にすごく、救われた
じゃなきゃお母さんに会いにいけなかったし
お母さんの事恨んでた
ありがとう
亜紀より
幸へ
幸、ごめんね
ママ、先に行くね
幸の側に居れなくてごめんね
ママ守ってあげられなくてゴメンね
幸の事
産んでよかった
あの時は幸の事どうしようって思ってた
それでも、この子は悪くない
って思ったの
小さな幸はまだ意味分からないかもしれないな
大きくなった時これをまた読み返して
ママの事忘れないでね
こんなままを許してね
こういうことしか出来なくてゴメンね
幸
大好きだよ
ママ、中学二年生で産んじゃったけど
後悔なんてしてないよ
だって、幸が産まれたんだもん
こんなに、嬉しいなんて思ったこと無いよ
これからも頑張らなきゃいけないけど
幸は一人じゃないんだよ
ママが出来なかった分
笑って暮らしてね
ママより
手紙は、亜紀の存在を感じさせる
亜紀が決めた人生
それは、幸せな人生だった
若くして死んでしまったけど
彼女はずっと笑っていた
幸の幸せを願って
小さな彼女は
生きる希望が
確かに実際した
どんなに挫折しても
希望がそこにある限り
彼女はくじけなかった
どんなに辛くても
彼女は一人じゃなかった
周りにはこんなに彼女の事を考えてくれる人が居る
そして、彼女は人を幸せにさせた
彼女もまた幸せだった
彼女の人生はここで終わり
私は中学三年生そして・・・子供が居る
終わり
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投稿者 mizuno
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