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クラーロ通信



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何故か私はもう目が覚めない気がしたから


死んじゃうのかなァ・・・?


私は成人式もまだ迎えていない未成年だ

それが、もう死ぬかもしれない
原因不明の病気を抱えている

そんなに強く生きられるはずが無い


私だって本当ならばまだ友達と遊んでいる時期だ

私は意識が無くなっていった


幸はね
小さなネ


子供なの

幸はね
小さなネ


子供なの


幸は小さな声で歌っていた


「幸ちゃん何の歌?」
若い看護士が聞く

幸はにっこりと笑い画用紙を取り出した

「ママと幸のお歌」

幸は八重歯をくっきりと除かせニカっと笑う

「そうなんだ。」

「ママが幸の側に居てくれるように」
幸はそういって視線をそらした

「大丈夫よ、幸ちゃん」
看護士は幸の横に座る

「ねーー、お姉ちゃん」
幸は呼びかける

「なぁに?」

「ママ死なないよね」

幸は小さくそう聞く


「大丈夫だと思うよ」


「ママ、幸の事置いてかないよね・・・」
幸はグっと唇をかみ締める

「ママ、幸の事嫌いになっちゃったのかなァ?」

幸は看護士の顔を見る

「そんな事ないよ。大丈夫、お母さんは幸ちゃんの事
 大好きだから」

看護士はそういって笑う事しか出来なかった


何しろ亜紀の病気は原因不明の病気

目まで悪くなってしまったらこれから何が起きるのか
分からないから・・・

寝たきりになってしまうかもしれない

最悪の場合も考えられる


死んでしまうかもしれない


こんなに、小さな子供が
一度に二人の最愛の人を失ってしまった

悲しくても泣かない子のこの強さ

きっと救われる事は無いのかもしれない


この子は


幸せになれるのだろうか?



幸が居るよ

側に居るよ

だから、泣かないで

だから、無理しないで

頑張るから


側に居て


居なくならないで


小さな幸の小さなわがまま

私は一面花畑に居た

ここは時間の流れは感じさせず

暖かい気持ちにさせる

ここにずっと居ても良いかな
そんな事を考えてしまうような世界


「亜紀」

湖の向こう側に人が居るのが分かる

「誰?」
「充だよ」

湖の向こうで手を振っているのが分かる

「充・・・」

私はゆっくりと近づく

「それ以上は来ちゃ駄目だよ」
充の悲しそうな顔が見える

「どうして?話がしたいの」

「君はまだ生きなきゃいけないんだ」

充が泣きそうな声を出す


「私も疲れちゃった。もう、ここで終わりにしたい」

私はそういって湖に足を踏み入れた


ピチャ

「駄目だよ」

充の声が響く

それでも、私は最愛の人に会いに行きたい


「ねぇ、好きといって
 私を抱きしめて・・・」

私はピチャと水しぶきを上げ
湖にひざをつける


ふわっと暖かい感覚が体を包むのが分かった



「ここに居るよ」


「充・・・」


「もう、無理しなくて良いんだよ
 
 こんなにキミの事を

 愛してるんだから
 不安にならなくていいよ


 辛いなら、僕も手伝うから

 一人で抱え込まないで

 愛してるよ

 幸せにしてあげられなくてゴメン」

充はそういってフワっと私からどいた

「亜紀には守らなきゃいけないものがある

 僕らの娘。幸を

 僕が守れなかった分も


 幸の側に居てくれ」


充はそういって笑った


私はゆっくりと目を覚ました

「助かった」

私は病室に居た

「ままぁーーーーー」

幸が私に近づいてくる

「あなたは、2日間程眠ったままだったんですよ」

看護士さんが笑って言う


「充の夢を見たんです」
私がボソッと言う

「じゃぁ、パパがママの事助けてくれたんだねぇ」
幸はニコニコと笑っている

「うん。そうみたい」
私の病室からは窓は見えないが
きっと今は綺麗な空が広がっているんだろう

私はドタバタとしている病室内を見渡す

薬の匂いにはなれてしまったので
あまり感じない

私が大きく深呼吸をした時だった

「亜紀ちゃん」
そういって春樹が現れた

「春・・・どうしたの?」
私がはぁはぁしている春樹を見つめる

「良かった…戻ってきてくれたんだね」
そう言うと春樹は明るい顔をした

「うん。ただいま」

私が笑って答えると

「身内の方ですよね、ちょっと良いですか?」
と医者が春樹を連れて行ってしまった

何故か明るいはずの病室が暗くなる
作り笑いみたいな・・・

きっと、これは気のせいなのだろう

私は自分でも分かるくらいの作り笑いしてたし
きっと、それがばれてるんだろう

「亜紀ちゃん、もう退院出来るって」
春樹も作り笑いだろうか?

「なら、今すぐがいい」
私は腕をぶらぶらとさせ元気をアピールした

「分かった・・」

「じゃあ、帰る準備しとくね」

「じゃあ、先生に言ってくる」

そういうと春樹はまた出て行ってしまった

「ままぁ、お家帰れるの?」
幸がベッドに座りながら聞く

「帰れるよ」

「良かったねぇ」
幸はニコニコと笑っていた

「そうだねぇ」

私は大きなバッグに荷物を全て詰め込んだ

「よし、完璧」
私は幸の横に座った

「まま、寒いねぇ」
幸が手をこすり合わせて言う

「もう、12月だもんね」

「サンタさん来るかなぁ?」

「幸は良い子だから来るよ」
私が幸の頭をグシュグシュとかき回した

「いやぁーーーー」
幸は笑いながら頭を抑えた

「亜紀ちゃん、書類かいてきたし帰って大丈夫だって」

春樹が笑って言った

「後、竜ちゃん呼んだから、車持ってきてくれるって」
春樹はそういった

竜ちゃんとは私の兄。今20歳だったはずだ

「あの人、車の免許持ってたんだ」
私が笑って言うと

「そうみたいだね」
と春樹も笑っていった


私は竜ちゃんの車に揺られて家に帰るところだった

外は大分真っ暗になっていた

時間は何時なのだろう


「亜紀、何処か行きたい所アル?」
竜ちゃんが後頭部席に座ってる私に聞く

「え?なんで?」

「いや、ずっと病院内だったし・・・」

「空が見たい」
私は助手席の春樹に向かっていった


「空?」

「そう、綺麗な空」

私が微笑む

「それなら」

といって竜ちゃんは進んでいった

「ママ、お腹空いたね」
幸が私の手をつないで言う

「そうだねぇ」

私は幸の頭をぐちゃぐちゃにする


そして

はぁっと息を吐いた

白い煙はたちのぼら無かったが

その代わり窓を白くした


「幸、見てみて」

私は白くなった窓に幸と書いた

「あーーーすごぃ」
幸は私のひざの上に上ってグルグルと丸を描いた

「まま、サチ、竜ちゃん、春ちゃん」
幸は小さな声で名前を書いていった


「なに、幸?」
竜ちゃんがミラー越しの顔をのぞかせる

「竜ちゃん、って書いたのぉ」
幸は顔をのぞかせる

「そっか」

そう言うとまた車を走らせた


私は段々うとうとして来るのが分かった

あれだけ病院で手術を繰り返してたら
疲れが溜まってるのも仕方ないだろう

私はため息をひとつ付き

幸にもたれかかる様にして眠ってしまった


「ちゃん」

「ママ」

「亜紀?」

声が聞こえる

「ん・・・ん?」

「着いたよ」

春樹がそういってにっこりと笑う

「ママ、早く行こう」


私は幸に手を握られそのまま外へ出た


「ほら、亜紀」

劉ちゃんが指差す空はキラキラと光っていて

すごく綺麗だった


「綺麗・・・」

私が空を見つめて言うと幸が竜ちゃんの元へといってしまった


「亜紀ちゃん」
そういって春樹が私の横に来た

「春」

「亜紀ちゃん、病気・・・」

「知ってるよ。分かってる」

私は空を眺める

「もう、長くないんでしょ」

私が春樹を見つめる

春樹は何も言わずに下を見る

「春、空見てみなよ」

春樹はゆっくりと上を向く


ぱぁぁっと広がる綺麗な空が目に入る


「生きてるなら、空見て

 私は、今生きてるって実感したいの」

私は優しく笑う

「亜紀ちゃん…」


「私は、今死んでも後悔しないよ

 こんなに綺麗な空が見えるから



 私は、生きてるんだよ」


「亜紀ちゃん
 亜紀ちゃんは、まだ生きていたい?」
春樹がゆっくりと私を見る

「どうだろう」
私が答える

「ここに薬があるんだ」

春樹はそういってポケットから小瓶を取り出す

「うん。」

「生きたいならこれ飲んで」
そういって春樹は薬を押し寄せた

「デメリットは?」

私が聞くと春樹は黙って下を向いた


そして、小さく言った



「ずっと、植物状態のまま」



春樹の言葉が大きく聞こえた


私は、幸せだよ

「亜紀ちゃんが決めなきゃ駄目だよ」

「これ、飲まなかったらどの位で死ぬの?」

私は小瓶を眺めながら聞く

「分からないけど、明日持つか分からないって」


春樹は下を見る

「でも、植物状態で治るかもしれない」

春樹は言葉を付け足した


「そう、一応もらっとくね」

私は薬をポケットにしまった



「ママーーー」
幸がキラキラと光るものを輝かせながら走ってくる


「わぁ!何それ?」

私はしゃがんで聞く

「これねぇ、落ちてたの。キラキラして綺麗」

幸はそれを私に渡した

「だから、ママにあげる」

幸はニィーーーっと歯をむき出しにして笑った


「ありがとう」

幸からもらったそれはピンク色にキラキラと光っていた

「亜紀」
「何?」
私は、竜ちゃんに手招きをされたので
春樹に幸を預け
竜ちゃんの元へと向かった


「お疲れ」

「うん?」

私は、だんだん目が慣れてきて
回りの景色を確認する余裕が出来始めてきた

奥の方で水が流れてるのが分かる


「春に聞いた?」
竜ちゃんが足を止め私の顔を見る

「聞いた」
私は石を蹴飛ばす

「そっか、」

「そんだけ?」


「嫌、うん。まぁ・・・
 どうするのか、決めたかなって」


「うん。決まってるよ」
私は石をまた蹴る

コン

「そっか」
きっと、この時竜ちゃんには私がどうするか
分かって居たんだと思う

「何かあったら言えよ」

「うん。」


「一人になりたい?」
竜ちゃんに聞かれ私は小さく頷いた

「無理するなよ」

そう言って竜ちゃんは私のほっぺたをギューっと掴んだ


「うん、ありがとう」


私はドクンドクンとする心臓を押さえながら
薬のふたを開ける


私は空になったビンを遠くに投げる

カン 

ぴちゃ
空気の無い音がして水に入るのが分かった


「行こう」

私はみんなの待っている方へと向かって歩き出す


これが、私の決めた人生




どんな事があろうとも





お母さん


私は、まだまだやらなきゃいけない事があるよね


でも、時間が間に合うかどうか分からないよ




やだ



私は、守らなきゃいけないものがあるよ


私は家に帰り紙を取り出した


「幸ちゃん、来てー」

私が隣の部屋で着替えている幸に声をかける


「なぁにぃ?」

「これ、覚えてて」

私がそう言ってその封筒をひらひらとさせる


「分かったよォ」

そういって幸はズボンを履いた


「ありがと」


私はそれをコタツの上に乗せる


その封筒は3枚



私は布団を敷き幸を眠らせた



「幸・・・」

「バイバイ」


幸がつないでいた指は朝にははずされていた


「ママァ?」

幸は起き上がり部屋を探す


お風呂場トイレ

お母さんの姿は何処にも見当たらない

「マ・・・マ」


涙が目頭を熱くするのが分かる


「幸、泣かないよ・・・」

幸はぐっと唇をかみ締める

ピンポーン

幸は小さな体で外をのぞく

「幸!竜だよ!!開けていい?」

「竜ちゃん・・・?」


「幸ちゃん、春樹だよ」

そう言うとドアがガチャと音がしてあくのが分かった


「竜ちゃん、春ちゃん」

幸は一歩下がり二人を部屋に入れた

「幸、おいで!行くよ」

春樹が両手を伸ばし幸を抱こうとする


「だ・・・」


「ぇ?」


「やっだよぉ・・・ママ、来るまで待つんだ」

幸は春樹から少し離れた


「ママは病院に居るんだよ」


「ママ、幸の事置いてかないって言ったもん」

幸はそう言って

ペタンと床に足をつけた


「幸・・・」


春樹は腕を戻した

「春・・・」

竜ちゃんが春の肩を押す

連れて来いといいたいのだろう


「幸、ママが呼んでるから、行こう」

春樹は靴を脱ぎ部屋に入ろうとした



かすかに幸の背中が震えてるのが分かった


「ねぇ、春ちゃっん」

「・・・・な・・・なに?」



ゆっくりと幸が振り向く


「幸、幸、ママが戻ってくるって信じたい」

幸の目には涙が沢山溜まっていた


「ママ、幸から離れないって言ったもん。」


そう言うと幸は声を上げて泣き始めた



幸は泣かない
絶対泣かない


いつも笑っていたのに


それが、この子にとって

どれだけ酷だったのか


どれだけ、辛かったのか


父親と


そして母親までもが


自分の愛するものを二人も失ってしまった


この子は


どれだけ、辛かったのだろうか?


幸が一通り泣き終わり

どうして良いのか分からなかったが

春樹が先に動いた


「じゃあ、ママに会いに行こう」

きっと、この言葉は必要ないのかもしれない


幸は春樹の元に歩いていった




亜紀はどちらを取ったのか


どちらにしても、少女は


少女を待っているものは悲しみしかなかった


春樹は幸を抱きかかえ車に揺られながら
病院へと向かった


車の中は無言で幸はずっと外を眺めていた



「雪」

幸が小さくボソっと言う

「え?」

「雪が降ってる」

幸はそう言って春樹を見た


「うん。そうだね」


僕はパラパラと降る粉雪を


ずっと、眺めていた


雨でもなく

雪でもない


粉雪



車を止め外に出ると
ふわっと粉雪が舞うのが分かった


「綺麗だね」
幸が春樹に抱かれて言う

「そうだね」


「ママ、雪大好きだから」


幸はそういって粉雪を掴む

だけど、それは手に触れてすぐに溶けてしまった


「行こう」


竜ちゃんの声に続いて病院へと入っていった

受付に行くとすぐに二階へと案内された

別館という事で通路を進む


段々薄暗さや活気がなくなってくる


あるのは、湿気と・・・



看護士さんに案内され一番奥の部屋へと入っていった


中に入ると薄暗さが目立ち

薬の匂いはしなかった



そして、奥の方に窓があるだけだった


中央にベッドがひとつポツンと置いてあった


「山川さんの家族の方ですね?」

医者がそう言う


「はい。」

竜ちゃんが毅然とした声で答える



「山川亜紀さんですけど」

そう言って医者は下を向く


「先ほど。お亡くなりになられました」

やはり、僕達の期待していた答えではなかった


「そう・・・っですか・・・」

「彼女は、薬は飲まずに捨てたそうです」

医者が鼻声になる


「私達はこういう現場を数回立ち会っているのですが
 彼女は・・・」


「どうしたんですか」

春樹が幸を抱く腕をギュっと強くする


「彼女は、あなた達に伝えて欲しいと」

そういって医者は息を呑む



「ありがとう」


「彼女はそう言って微笑んで亡くなられました」


亜が選んだのは死だった

19歳のまだ、小さな亜紀が選んだ道は


二つしかなく

どちらもいばらの道だった




彼女が選んだ人生



小さな子供の不幸せな人生



いいえ、彼女は幸せでした



それが、彼女の最後に現れているから


幸は小さな腕を強くして
母親の元へとゆっくりと進む


彼女の最後の姿は



きっと、幸せだったのだろう


「ママ」
幸は母親の隣に行く


「ママ、ありがとうございました」

幸はそういって頭を下げた


「ママ、幸の事産んでくれてありがとう」


幸は今度は泣かなかった


いつもはえらそうにしている竜ちゃんの肩は震えていた


春樹はゆっくりと幸を後ろから抱き寄せる


「もう、良いんだよ」

それでも幸は頭を上げない


「ママは幸と居れて幸せだったはずだよ」

今の春樹にはこれしかいえなかった



雪の降る日


亜紀は静かに息を引き取った


その後幸と家に戻り亜紀が書いた手紙を
幸の手から受け取った





竜ちゃんへ


ありがとう、最後のわがまま聞いてくれて

竜ちゃんは優しいお兄ちゃんだったね
私が、選ぶ道もきっと分かっていたと思うの

ごめんなさい


ありがとう


最後のわがまま聞いてもらえる?


幸の事、私守れなくなっちゃった


だから、竜ちゃんお願いできないかなァ?



亜紀より



春へ


もう、めそめそ泣いてないよね

ありがとうね

幸は春にはなついてたから

私が妊娠しても春は受け入れてくれたよね
春のあの言葉に私は救われたよ

帰ってきて良いって

私の居場所はきちんとあるんだなって

実感できた

春にすごく、救われた

じゃなきゃお母さんに会いにいけなかったし
お母さんの事恨んでた

ありがとう


亜紀より



幸へ

幸、ごめんね

ママ、先に行くね
幸の側に居れなくてごめんね
ママ守ってあげられなくてゴメンね

幸の事
産んでよかった

あの時は幸の事どうしようって思ってた


それでも、この子は悪くない
って思ったの

小さな幸はまだ意味分からないかもしれないな

大きくなった時これをまた読み返して
ママの事忘れないでね


こんなままを許してね


こういうことしか出来なくてゴメンね





大好きだよ




ママ、中学二年生で産んじゃったけど

後悔なんてしてないよ



だって、幸が産まれたんだもん


こんなに、嬉しいなんて思ったこと無いよ



これからも頑張らなきゃいけないけど

幸は一人じゃないんだよ


ママが出来なかった分

笑って暮らしてね



ママより



手紙は、亜紀の存在を感じさせる

亜紀が決めた人生

それは、幸せな人生だった


若くして死んでしまったけど

彼女はずっと笑っていた


幸の幸せを願って



小さな彼女は


生きる希望が

確かに実際した


どんなに挫折しても

希望がそこにある限り


彼女はくじけなかった



どんなに辛くても

彼女は一人じゃなかった



周りにはこんなに彼女の事を考えてくれる人が居る


そして、彼女は人を幸せにさせた



彼女もまた幸せだった




彼女の人生はここで終わり






私は中学三年生そして・・・子供が居る

終わり



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おぎゃあおぎゃあ

また一つ小さな命の誕生

「大丈夫ですよ」
「可愛い女の子です」

アリガトウ・・・

元気で生きよう・・・・

私の名前は山川 亜紀 中学三年生

至って普通の中学生。
ただ違うとしたら…

私は家族と暮らして居ないと言う事
そして、同級生の大野 充と同居してる事……

最後に一歳になる娘が居る

私は子持ちの中学生だ


喜劇の始まりはあの晩の事――
私達はいつものようにお互いの愛の確認をしている所だった
そして―――中に出してしまった……

私は妊娠した

家族はお腹の大きくなった私を罵倒した
だが物事は着々と進んで行った



「もう中絶は出来ません」
医者に言われた言葉だった
気付くのが遅過ぎたのだ

「出て行きなさい」
母親はいつも冷たいが今回は余計に冷たい

兄弟は私の顔を見ようとしない

ゴメンネ・・・


私は少しの衣服と預金通帳と携帯電話そして学校の物
をトランクに詰め込み家を出た

母はお金だけは振り込むだから



トオクヘイケトイッタ


お腹の大きくなった私を突き放しながら



この子は悪くない


悪くない


悪く・・・ない

私は携帯電話を取り出し電話をかけた

この子のお父さん
大野充に

「もしもし」
「もしもし・・・大丈夫か?」
充は何だか元気が無い声で電話に出た

「大丈夫な訳無いじゃん。もークタクタ」
これは本音

「それでね、あたし赤ちゃん産まないことにしたの」
これは嘘

「なんかね、遠くへ行くと薬もらえるの
 だから少しの間会えないかもー」

「は・・・?何・・・?」
充は戸惑った口調で言う

「大丈夫だって。きっと元通りのあたしになってるよ

 っていうか・・・・もう会わない方が良いかも」

私は充の声を聞かずに電話を切った

だって、電話繋がってたら充から聞きたくない言葉が聴けちゃうかもしれないんだも


私はゆっくりと携帯電話の電源を切った・・・

そして、私の牢獄へと向かうことにした


私は自分の家に向かうまでに充との思い出を捨てる事にした

初めて会った公園そしていつも私が悲しくなるたびに

使っていた公園

私は、その公園のベンチに座る事にした
大きな荷物を抱え小さな私がこんなにお腹を大きくして
本当に自分が惨めになってくる

それでも、私は泣きたくない
泣かない

一児の母になるのなら

私は街頭に照らされる公園をずっと眺めていた
私の誕生日が過ぎもうそろそろクリスマスだ

きっと昔の私なら彼氏と楽しい日を過ごすのだろう

本当に泣きたくてもこんなんじゃ泣けない


今気が付いた


ワタシハヒトリボッチダ


はぁ〜っと息を吐く
白い煙が立ち昇って消える

寒い・・・

私は暗くなった道を見る
この分じゃ早く行かなくてはすぐ真っ暗になるだろう

それでも、この思い出の場所から離れたくは無かった

私はゆっくりと公園をフラフラしていると

「亜紀!」
と呼ぶ声がした。
私はゆっくりと振り返る

そこには大野充の姿があった

「何してやがんだ!」
「み・・・充・・・?」

充はゆっくりと私を抱きしめた
冷たい

彼の抱きしめた感触はそうだった

凍ってしまいそうな

そんな


「オレも一緒に行くから」
充はゆっくりとしゃべった。

「何言ってるの?!充はもうすぐ3年生になるんだよ?! 夢を放さないで」

「それでも、亜紀が嘘付いてる事分かる
亜紀は一人じゃない 俺が付いてるよ。ずっとずっと側に居てやるよ
だから、オレを置いていこうとするな… 亜紀が世界で一番大切だから」

充はそういって私を強く抱きしめてくれた。

中学二年生冬私は子供を出産した

私はあれから一年という月日を彼と過ごした

私は学校を半年弱休む事となってしまって
高校へ進学は難しいと言う事だ

そして、学校にも知らされている事実

私達は勘当された事

親が居なかったら高校進学も難しいとの事だ

だが、充の母親は充の親としてかは知らないが
よく連絡を取っているようだった

充は高校へ進学する事は出来るとの事だ

私は、あれ以来電源をつけていない携帯を手に取る
親はちゃんと私の口座にお金を振り込んでくれているようだった

多分そろそろもらえなくなるだろう…

「ただいま」
充はコートを羽織り玄関に寒そうに入ってきた

「おかえりなさい」
私は娘の幸と一緒に出迎えた

「だーーあーーーぶー」
幸は体に障害が無いかどうか心配だったが今のところ
元気に成長してるようだった

「ただいま、幸」
充はゆっくりと幸を抱き上げた

「うぅうう〜」

「今日はね、寒くなってきたからコタツ出したの」
私がニッコリ笑って言うと充は
「遅いだろう。もう少し早くても良かったんじゃないのか?」
といって早速コタツに入り幸を抱きしめた。

「ご飯作るね」
私はリビングの前に立ち具材をだした。

昔は包丁さえも使えなかったものの
充に教えてもらい大体の料理は作れるようになった。

「無理するなよ」
充はカバンから勉強道具を取り出しコタツの上に広げた。

「充もね」
私は笑いながらそう言うと
充は頑張らなきゃいけないんだ
と言っていた。

私達の朝は早い
「幸!待ちなさい!保育園行くよ」
「だーーーぁーーよーー」
幸は部屋を走り回っていた

幸は一応保育園に入れることが出来た
知り合いに頼んでどうしてもとお願いしたのだ

「んん〜〜〜ん・・・」
幸は充の上に乗っかった

「ぱーーーーーぱぁーーー」
充は小さな体を必死で動かして充を起こそうとする

「さち・・・幸?!もぉ・・・重いよぉ」
充はゆっくりと起き上がり幸を抱きしめた

「きゃぁーーー」
幸はニコニコと笑っていた

私は幸の着替えと自分の制服を出して着替え始めた

「おはよう、亜紀」
「おはよう、充」

充は小さくあくびをして制服に着替え始めた

「幸もぉー」
幸は着替えている充にくっつきながら洋服に着替え始めた

「ほら、これ違うよ」
充はしゃがんで幸の服を手伝ってあげた

「はい、朝ごはん食べちゃってね」

私はコタツの上に朝ごはんを並べた

「サンキュー。」
「今日は、何時に帰れるの?」
「先生に勉強聞くから遅いかも」
充はここ最近ずっとこの調子だった

「そう」

幸はニコニコ笑って席に着いた。







大丈夫



あなたはきっと幸せになるから・・・・







違うの







そんな理由で名前をつけたいんじゃない。

彼女の名前の由来はね
幸せを感じるように


幸せになるように


きっと素敵な子になると思うの


私は、あの日あなたに言った
幸の生まれたあの日に

「きっと、俺達も幸せになれるよ」
充はそう言ってまだ生まれたばかりの幸を

幸せそうに抱きしめた。


あの時いえなかった私の言葉

幸は幸せの証じゃない事

そして、私は幸せにならないという事



あなたは私のことを見ていないのが分かるから


私達は一度大きな喧嘩をしたことがあり
そこで別れた経験がある。

その時に噂で聞いたこと


充、別れて幸せだって


そんな事。

小さな私はどうとらえて良いのか分からず
大人にも子供にもなれない微妙な狭間に居た

「へー、ま、良いよ」
強がりを言うのは一人前なのに
素直になる事は人一倍嫌だった

本当はすごくショックだって
ゴメンねって言いたいって

そんな時少ししたらあなたが戻ってきたの

「やっぱり、亜紀が好き」

小さな私はそれだけで幸せだった

これが私の第一歩


不幸への階段へのね


あなたの本命の名前私知ってるの














幸って言うんだよね・・・

あなたは、浮気していた事
自分の罪滅ぼしとして受け入れるのね・・・


自分の娘を見るたびに思い出すでしょう・・・

幸は幸せそうに笑って居た

「どうした?亜紀」
充は先ほどからぼーっとして居る私に声をかけた
「なんでもないよ」
私はニッコリ笑いかける。幸は相変わらずニコニコしていた

充は不思議そうな顔をしたがそれ以上は何も言わなかった




「じゃあ…今日は俺が幸を保育園に連れてくよ」
充は鞄に教科書を詰め込みながら言った

「分かった」
充は上着を手に取り幸に着せた。
「さぁ、幸行くよ」

充は幸の肩をポンポンと叩き自分の鞄を手にした
「ままぁー、行って来るねぇー」
幸は駆け足で玄関に向かった
「じゃあ、後で」

充はそう言うと出て行った。

「…行ってらっしゃい」
私は片付けをして携帯を手に取り電源を入れようとした
だが、何故か付けてはイケない気がした…私は携帯を元の場所に起き
学校に行く事にした。




私の人生はこんな人生………


思い描いて居た幸せや家族何かじゃない


どうして私ばっかり不幸になるの?

私は洗いものを終え家を出た

学校へと向かう途中までに何度カップルや
嬉しそうに笑った人たちとすれ違った事だろう

思わずため息が出る

はぁ

私の歩いた後には白い煙が出来ていた。


学校へ行き私は今日もビクビクとする

イツ幸の事がばれるだろうか

そんな事ばかり・・・



そして一時間目の始まりのチャイムがなった時の事だった

「おはよー亜紀。さむくねぇ?」
「寒い寒い」

「山川ちょっと良いか?」
担任の先生のさえない顔が目に入る

「ごめん。なにかなぁ・・・」
「悪いことしたんだろう」
「かもね」

私はまんざらでもない曖昧な返事を返し教室を出た

他のクラスの前を通ると
真面目に授業をやってる風景が目に入る

先生を前にして歩く私は一体どんな風に見られてるんだろう

私は充のクラスの前に差し掛かりチラと充を探した


私はほんの一瞬だったが充が女子に囲まれている所が見えた


あれはきっと充じゃない・・・・




自分にそう言い聞かせるので精一杯だった









佐藤 幸・・・・・

充の元の彼女・・・・



本命の姿があったから。。。

私は高まる鼓動を抑えその場を足早に通り過ぎた

気付いてませんように・・・
ただそう願う事しか出来なかった。


先ほどから気付かなかったが先生の顔は真っ青だった


私は先生が見せる態度が異常なものに見え何かが起こったといち早く理解する事が出来た。


私は長い廊下を進み職員室に着いた。
職員室はコーヒーの匂いがすごくした

「ちょっと・・・そっちの部屋で」

先生はそういうと生徒指導質を指差した

話し合いがあるときは良くここを使う


面倒


私の頭にはそれしかなかったがこのマイクロミニの
制服で廊下に立ってるのも寒いので
取り合えず生徒指導質に入る事にした


私は数回はいった事のある殺風景な部屋を眺めた
一回目は暴力事件
二回目は器物破損
三回目は不要物
  
後はそんな感じで続くと思う

私はつくづく自分に嫌気がさしてきた


はぁ・・・息を吐き先生を待つ

まだかよ・・・


先生の深刻そうな顔が何故か気になって仕方なかったから。。。

「あーーー一体何時まで待たされるの・・・?」
あたしは時計に目をやるここに入ってから10分しか経っていなかった

「遅くなってゴメンね」
先生のだらしない顔が何故か余計にだらしなく見える

「話は・・?」

私がおずおずと聞く

「お母さんが倒れたそうだ」
先生は小さな声ではっきりという

「は・・・?」
私はいきなりのことを受け止める心の余裕など無かった

「な・・・なんで母が?」
「やっぱり連絡無かったんだね・・・」


「はい・・・」


私は先生の質問に対して異常なほどに間をあけて答えた


「そうか・・・それで、病院の方に行って貰いたいという事だが」


先生は下を向いて指をグリグリと動かしている



「行きません」

私は先生を見つめて言った
先生はビックリしたように急に顔を上げた

「行きませんよ。私は」

私はもう一度先生に念を押すように伝える


「話がそれだけなら失礼します」

私は ガタガタ とイスを動かし立ち上がった

「待ちなさい・・・」

先生は立ち上がった私の腕をつかんだ

「なんですか・・・?」



「どうしてそこまで嫌がる必要がある?」

先生は静かに聞いた



どうせばれる事だろう


私にはもう失うものは何も無い




「子供を作って、親に勘当されました」


私は本当の事を伝えた

そして、生徒指導質を後にした


「ま・・・待ちなさい!!」
先生は出てしまった私にそう投げかける
勿論私は戻るつもりは無い


母親の病気も気になったが

お腹の大きくなった私を


無一文の私を外に投げ出した親だ



今更死んでも私は悲しくないだろう。

冷徹?



私はこういう女だ。

私は長い廊下をまた自分のクラスまで戻った


相変わらず受験戦争の中で戦っている生徒が目に入る

そして充の姿もあったのかもしれない




だが、今の私には充を見る気力は無かった。

それは、教室に入った時に始まった。





ガラ

教室のドアを堂々と開ける
先生は居ない

と言う事は自習だったのだろう


みんなの目線が私に降り注ぐ


何・・・?


急に教室が静まり返ったと思ったら
またざわつき始めた



「やばくない?」

「ありえないし」

「きも・・・」

「ひくよね」

そんな言葉が教室を飛び交う

私は自分の席に戻り友達に話しかけようとする


「ねぇ、どうしたの?」
「・・・・」

私はクラスの雰囲気がおかしい原因は自分にあると気付いた



私はゆっくりと顔を上げた



黒板に大きく








子持ち女 山川は出産経験女

親に見捨てられた女




そう黒板に殴り書きされていた


「な・・・なにこれ!」
私は思わず立ち上がる

「ね・・・あれどういうこと?」
「誰が聞いたの?」
「先生と話してるとき・・・」

「ありえない」



「援助交際?」



私は数々の侮辱の中黒板を消した
親友だったはずの人も見てみぬ振りをしている


どうしてよ




私は悪い事したの?


涙が流れそうになる

でも、泣かない


こんな事で泣いてたまるか!

私が黒板を消し終わったと同時に担任が入ってきた

「何してるんだ・・・?」
担任はボォっとした顔でこちらを見つめる

「赤ちゃん産んでましたー」
誰かが小さな声でぼやく

クスクス・・・

教室中が静かな雰囲気に包まれる

私は無言で自分の席に向かった


周りの人は私から机を遠ざけている


こんな事でくじけてたまるか

私は自分にそう言い聞かせるように気を奮い立たせた



感情なんて無くしたから

私はクラス中の目線が気になって仕方なかった

でも、今日は5時間授業。もうこれで帰れる
私は深いため息をはぁ・・っと吐く

カサ

紙の落ちる音が聞こえた。

「・・・な・・なに?」
私は拾って中を広げる



「味方になれなくてごめん。
 あたし等親友だと思ってたのに
 亜紀はそう思ってなかったんだね




 秘密にしないで欲しかった・・・」


私は周りを慌てて確認する

この手紙の主はきっと私の友達

だが、私を見てるのはクラスメイトと他のクラスの人だった


「ねー誰の子供?」
急に声をかけられる
「あー?充の子だろ?」
私は何も言わずに黙って居る




「あ、でも充な訳ないか。アイツ
 3組の佐藤 幸 とラブラブじゃん?」
「つーか、これ言ったの充だしね」




・・・・・は?



なんで



ミツルハアタシのミカタジャナイノ?

「っんでよ!!」
私は思わず机を叩く

「あぁ?びびったなぁ」

「っっんでよ!」
男子がフザケテまねする



あははははははははは


笑い声が響く




なんで・・・・


なんで・・・・






うそつき・・・










佐藤 幸と付き合ってる

充が言った








私は何を信じればいいんですか?


私はこの場から逃げたくなってきた

それでも、ここで出て行ったら負けになる

私は唇をかみ締め帰りを待った


さようなら

先生の声が聞こえ私はゆっくりと教室から出て行く



「あいつでしょ?」
「相手おやじじゃねー?」

「援交やってんの?」

「つーか、引くよね」


周りの人の声が聞こえる。


ありえない・・・ありえない・・・ありえない


私は下駄箱を飛び出し門まで急ぎ足で向かった。

亜紀ちゃん!」
私は門を通り過ぎたあたりで声をかけられ立ち止まる

「亜紀ちゃん・・・お母さんが」
その声の主は私の弟春樹だった

「春・・・」

「亜紀ちゃん・・・来てよぉ・・・」
春樹は中学1年生で私のことをまだちゃん付けで呼んでいる

春樹はゆっくりと私に近づいてきて
私のコートの裾を掴んだ

「亜紀ちゃん・・・お母さんしんじゃうよ」
春樹はボロボロと涙をこぼしている

「分かった・・・分かったから!ここはまずいし早く」
私は泣きじゃくる春樹には絶対勝てない

はぁ

と溜息をつき自転車置き場に向かった

「春樹、泣き止んだの?」
私は春樹の顔を覗き込む

春樹の顔は私とよく似てるらしくて女の子みたいだ
だから色々大変らしいが。

一年ぶりにあう自分の弟の姿に何だか照れくささがあった

「うん。大丈夫」
春樹はそういってニカっと笑った

私は昔からこの笑顔が大好きだ

私もニコっと笑い返して自転車にカギを差し込んだ


「乗って」
春樹にそう言うと春樹は
「オレのがでかいしオレ乗るよ」

春樹はそういって自転車にまたがった

私は渋々春樹の後ろに乗った


「あのさ、亜紀ちゃん」
春樹は小さな声で話しかけてきた

「なぁに?」

「オレにとって亜紀ちゃんは大切だから」
「うん。」
「無理しないで欲しい」

春樹はそういって鼻をすする

「大丈夫だよ。無理してない」
「亜紀ちゃん、学校で見かけるけど
 悲しそうな顔をしてるんだもん。。。」

春樹はしゃくりあげながら話す

「もぉ、男だろ!泣くな!」
私はバンバンと春樹の背中を叩く

「うん・・・
 あのね、亜紀ちゃんさえ良かったら






 亜紀ちゃんの子供と一緒に家に戻ってきなよ・・・」

春樹は自転車を止めこちらを向いた
イツになく真剣な春樹の顔に声が出なかった


「お母さんも、口では言わないけど亜紀ちゃんの事

 待ってるから・・・」


春樹はまた前を向き自転車をこぎ始めた


「うん・・・・考えとく」
これは本心だった。

戻れたら戻りたいと思うのが普通だろう

私の家族なのだから…


「取り合えず、病院行くからね」

春樹は自転車をこぎながら言った

「分かった・・・」

私は泣かない絶対に。。。

笑って暮らすんだ・・・

私は春樹の後ろでずっと考えていた
私がこれからしなくてはいけないこと

沢山あるから・・・

「着いたよ」
春樹はそういって自転車を止めた
「ありがと」
私は自転車から下りて鞄を持ち直した

私達は受付に向かった

「特別治療室なんだ」
「そうなんだ・・・」
私は春樹の半歩後ろをとぼとぼと歩いていた

久しぶりに気付くところ意外に大きかったり
優しかったり
可愛かったりする所

春樹は変わっていない・・・

私はほっと一息ついてよく、考えた

「駄目だよ春!あたし・・・いけない」
私は春樹の袖を引っ張りながら言う
「なんで?」
春樹が不思議そうに見る

「今日、学校で先生に言われて・・・」
私は学校で起こったことを全て話した

勿論黒板の事も・・・


「大丈夫だよ・・・」
春樹は下を向きながら言う
「駄目だよ・・・」
「お母さんも待ってる。今のままじゃ余計に酷くなる」
春樹は私の目を見ていった

「これ以上亜紀ちゃんが不幸になって欲しくない」

春樹は目に涙をためながら話した

いつの間にか春樹の目は腫れてしまっていた。

「分かった・・・行くよ」
私の結論・・・私はそのまま春樹に連れられ
特別治療室へと向かった

特別治療室
部屋の上にそう書かれていた
何だか重々しい雰囲気に包まれドアを見つめる
ドアの前には面会謝絶と書いてある
と言う事は、親類以外は駄目なんだろう

私はここに居て良いのだろうか…

取り合えず春樹が先頭を切ってドアを開ける

ガチャ

異常なほどに清潔な音がする

入った瞬間私は目を覆った


目の前には透明なビニールシートみたいなのがあり
その中に母が居る

母は大量のチューブにつながれて
母の横では機械が音を鳴らす

ぴ・・ぴ・・ぴ・・ぴ・・

等間隔で音は聞こえている

「行こう」
春樹はそういって手を差し伸べる

私はゆっくりと春樹の後を付いて行く

「この中清潔にしなきゃいけないんだ」
春樹はそう言って上着を脱いだ
私も上着をそばの椅子にかける

春樹はそばにおいてあったスプレーを取り出し
自分の体に吹きかける

ツンと薬の匂いが充満する

「亜紀ちゃんも」
そういって春樹はスプレーを向けた

「うん。」

私の体一面を空気が大量に触れる

薬のにおいはいっそう酷くなってきた

「はいこれ」
春樹は慣れた手つきでマスクを渡す

本当にここは完全防備なんだろう・・・

「そういえば、春。ここ勝手に入って大丈夫なの?」
私は先ほどから気になってた事を聞く

「うん。大丈夫。連絡したから」
春樹はそういってマスクをつける

私もマスクをゆっくりとつけた

「お母さん入るよ」

春樹は奥の方にあるドアを開け入った
私もゆっくりと春樹に続いて入った

「春・・・?」
お母さんは目を開けずに起き上がろうともせず
声だけ出す

「そうだよ」
春樹はゆっくりとお母さんに近づく

「今日はね・・・亜紀ちゃんを連れて来たんだ」
春樹はそういって私を見た

分かってる
行けばいいんでしょ


私は何を言われるのかドキドキしながら近づいた


「・・・・」
私は何て呼んでいいかわからずにオカアサンの前に来た
「ねぇ、亜紀ちゃん来たよ」
春樹が手を触る

その時さっきまで動こうともしなかった親が
急に起き上がりこちらを見た

ガタガタと音がしてチューブが動いた

「亜紀・・・」
これが私に向けられた一声だった

「な・・・なに」

「亜紀なのね・・・」
「亜紀ちゃんだよ」
春樹がまた潤んだ瞳で私を見る

「亜紀・・・何処に居るの・・・?」
オカアサンは手を目の前に差し伸べた

「え・・・私ここに居るよ」
私はオカアサンの手には触れずに答えた

「お母さん見えないんだよ」
春樹が下を向いて言う

「お母さんね、自業自得よね」
そういって手を下ろした

「別に・・・」
私は喉の奥が詰まるのが分かった

「ごめんね・・・」

オカアサンは瞳を開けたまま涙を流した

「亜紀が辛いの知ってて
 追い出したりして・・・」

「うん。」

「それで、こうなっちゃったの。
 これは亜紀に対しての罰よね」

そういってオカアサンは涙をぬぐう

「そんなこっっ・・・」
言葉がうまく出ない

やはり喉の奥が詰まっているようだ

「でも、会えてよかった…

 生きてて良かった


伝えれなかったけど

 亜紀はお母さんの大切な娘だから

すごくショックだったの」

オカアサンは優しく微笑む

だがその瞳には私は写っていない

「ごっめん・・・」
私は下を向きながら言う
何も見えていないと分かっていても

今のオカアサンと目を合わせるのは酷だった

「お母さんが誤らなきゃ駄目よ…

 でも、本当にあえてよかった

それで・・・赤ちゃんは居るの?」

「ここには居ない・・・」
私が小さく答える
春樹は心配そうに私達の顔を見ていた

「そう。元気なの?」

「一応ね・・・」

「病気とか障害とかあると思ってた
 健康な子産めないと思ってた


 あなたは、今幸せなの?」

私はその言葉に答えるすべが見つからなかった
私は シアワセなのだろうか・・・?

私が黙っていると

「また、戻ってきてくれないかしら?」

オカアサンがそう言う
「無理だよ・・・」
私は下を向きながら言う

その言葉に春樹は

「何で・・亜紀ちゃんの家なんだよ・・・」
「それでも、あたしはあの家には住めないよ」
私は春樹の顔を見て言った

「そうね、それがあなたの選んだ道なのね」

オカアサンは悲しそうな顔で言った

「私は、あの日誓ったの
 私の選んだ道は私の道だから

 悔いが無いように生きるって」
私はそう呟いた

「なら、仕方ないわね。それでも・・・」

オカアサンは急に止まり

ドサっと音を立ててベッドに倒れた


「お母さん・・・?」
春樹が慌てて近寄る

オカアサンは目を閉じて動かない

「お母さん・・・お母さん・・・お母さん・・・!?」
春樹は何度も揺さぶる
私は慌ててナースコールを押した


ピピピピピピピピピピ

いつの間にか音は早くなっていた

「お母さん!お母さん」
春樹がそばに居る

ガタガタガタ

と音がして看護婦らしい人と医者が入ってきた

「大丈夫ですか?」

私はあんなに憎い親なのにその光景を見つめていた

「亜紀、ほら頑張りなさいよ」
あれは、私が小学校の頃
運動会で組み体操の主役

三段タワーで一番上をやった時の事

グラグラして不安定な所
私は数回ためらった

でも、先生がうるさいから・・・

私は怖がる足を押さえ上った

やはり、落ちてしまった

私の意識はそこで無くなった


私はあの時真っ暗闇にいた気がするのだが
ずっと私の手だけは暖かかった

「ちゃん・・・」

「亜紀ちゃん」

母の声が段々聞こえてくる

私は声の方へと歩み寄る


私は目を覚ました
私が一番初めに見たのは

私の手を握って居て涙でぐちゃぐちゃになった母の顔だった

「亜紀!!!!」
母は私と目が会うと目を輝かせ私を抱きしめた
暖かかった

「亜紀、還ってきてくれてありがとう」
母はそう言って私を強く強く抱きしめた


あのぬくもりは暖かかった


「お母さん!」
私は思わず駆け寄る
そして、触れなかった手を

母がしてくれた時と同じように

今度は私が暖めて見せるから

私はゆっくりと両手で母のてを包んだ

「お母さん・・・お母さん・・・お母さん・・」

私はずっとうわごとの様につぶやいていた


少しして看護婦さんに連れて行かれるのが分かった
でも、意識が大分なくなってきた

春樹の顔は涙でいっぱいなのに少し嬉しそうだった

お母さん

お母さん

お母さん


私は目を覚ました
「亜紀ちゃん」
春樹の目ははれていた

「おかあさん・・は?」
私は体を起こして聞く
一瞬春樹の顔が一瞬強張るのが分かった

「あっち・・・」
春樹の指さした方はドアがひとつあるだけだった

「あそこ・・・?」

私はゆっくりとドアの前まで行く

深呼吸を少ししてドアノブに手を回す


がちゃ

私は部屋に入る
部屋は先ほど以上に薬のにおいが充満してた

「お母さん・・」

部屋の中央にはベッドと器具が置いてあって

ピッピッピ・・・

その機械はよくテレビで見る気がする
私は機械の横においてあるパイプイスを手に取った

「お母さん・・」
私はベッドの横に座った

母は口にマスクみたいなのをつけていた

私はゆっくりと母の手の握った

そして両手で優しく包んだ


「お母さん・・・」
私は話がしたい生き返って欲しい
そうずっと願っていた

「ん・・・」
「亜紀・・・」
母は口を少し上げた

「お母さん!私はここに居るよ」
母親に声を投げかける

「良かった・・・暖かいね。亜紀の手は」

「お母さん!ずっと言いたかったんだけどね
 私も、お母さんにこうしてもらえて嬉しかった
お母さんに命を救われたんだよ」

私ははぁはぁしながら言う

「亜紀・・お母さんもう少し亜紀の事分かってあげればよかった」
「もう・・・そんな事言わないで」
喉がヒュウっとなるのが分かった

「亜紀が居なくなってからずっと心配してた
 お母さんも亜紀に言いたい事があった」

母親は所々間を空けながら言う


「亜紀 亜紀を産んで良かった。
 これから、元気で生きて」

「な・・・何もう死ぬみたいなこと言ってるの!?」
私は握った手を強くする

「ありがとう
 もう、無理しなくて良いんだよ」

そういって母は目をゆっくり開けて私を見た

「おかあさん・・・」


母は微かに笑った


ピーーーーーーーーー
機械の音がやけに大きく聞こえた


母は他界した


私は涙の出ない顔を鏡越しに見る

あの後どうなったのかは全く覚えていない

ただ、私の家に私は居た


充と私と幸の牢獄に

そして何事も無かったかのように二人を出迎えた


今の時間は3時を回っている
あれから全く眠れない
私の右隣では幸が幸せそうに眠っている

私はゆっくり起き上がり鏡の前に来た
そして、今に至るそう言うところだ。


私は鏡の中の私を見つめる

どうして涙が出ないのだろう
私は感情を持たないのだろうか

あの人は母親

私を生んでくれた


そしてありがとうと言って去っていった


私は二人を起こさないように外に出た
冬の風は私を心地よくさせるどころか
心細くさせる

車は一台も通らず人の姿も見当たらない

はぁ
っと息を吐けば白い煙が立ち上る

私はその意味の無い行為を数回繰り返した

星が沢山空で瞬いているのが分かる

一筋の流れ星が流れたのが見えた

「あ・・・」
私ははじめて見た流れ星に心を打たれた


悲しい時辛い時

前に進むんじゃなくて

ココに留まってもいいのかな?


もう、私は疲れちゃったよ


私はそれから数年を過ごした
その牢獄で

私の歳は19歳あの時から4年もたった
幸は5歳になった

正式に私達は婚姻届を出そうとしている時だった


「ままーーーぱぱ今日も帰り遅いのぉ?」
幸の大きな声が響く
「もぉ、幸あっちいってよぉ」
私はエプロンにしがみつく幸をどけるように言う
「分かったよぉ」

幸はぶぅぶぅ言いながらも離れていった

「アンパンマソ見るんだーー」
幸はコタツの中に入りテレビをつける


充が帰りが遅くなってどのくらいの時をすごしただろうか

浮気をしている

もう私の頭の中にはその思いしかなかった


今日こそは絶対に問い詰めてやるから・・・


私は幸と一緒にご飯を食べ寝る準備をした

「本読んでーーー」
幸は本棚から本を数冊持ってきた

「こんなに読めないよ」
「じゃーーお話して」
幸は本を布団の上に載せた

「寒いー」
幸は布団の中でモゾモゾと動いていた

「じゃぁ、何のお話が良いの?」
「おばーーちゃんお話がいい」
幸は布団の中からこちらを見る

「良いよ」
私は幸に布団をかぶせそう言った

私は幸のお腹をポンポンとたたきながら話しをする

「おばぁちゃんはね、ありがとうって言って
 天国へ行っちゃったの」

私が話終えると幸はもうすでに寝息を立てていた

「これから、どんな事があろうとも幸を守りたい」

私は幸を起こさないように布団から出た


カタ
私はテーブルにあるコップを手に取った
そしてそれをまた置いた

私は数回無意味な行動をして
テーブルの上に突っ伏してはぁー
とため息をついた

ふと、テレビの横でちかちかと光ってるものが目に入った

それは、私の携帯だった
あの、電源をつけずに居た

私はその携帯を手に取り埃を掃った

ふぅーーー

携帯についていた埃がフワっと空を舞った

そして、私は慣れた手つきで電源を入れる

そして、メール受信というボタンを押した


72件受信中

9件の伝言を預かっています


私は伝言を眺めていたがメールボックスを開いた

それは沢山の友達、充、春樹、そして
オカアサンからもあった

私は順番にメールを見ていった


私はカチカチと音を立てて携帯を見る
私は不意に中学3年生の時の事を思い出した

そう、私のいじめが始まった時の事を

でも、心の何処かでは予想していた事態だったし
対して心に傷は作らなかった

どうせ、高校も行かないつもりだったし
無理なら学校を休めばいい

そう言う気持ちが強かった


黒板に大きくあの字を書いた人
私は知っている


最愛の人の字特徴私が一番良く知っている


私はメールを読んでいた

エンコウ?
など、そう言うことが書かれたメールも中にはあった

やっぱり・・・

私はふぅ、と一息ついて次のメールを見ることにした

カチ

私はメールを読んで息を呑んだ


ただ一言

頑張れ

そんなメールあて先は知らない
私はその次のメールも開く

カチ

カチ

カチ

カチ


後半のメールの大部分は私を応援するメールだった

赤ちゃん元気で育つと良いね

無理しないでね

がんばってね

ごめんね


私は一言のメールだけが延々と続いてるのをずっと
ずっと読み続けた


カチ

次のメールは紛れも無い
この世には居ない母からのメールだった



亜紀、あなたが選んだ道は
あなたの人生です

これから、どんな事があるか分からないけど
私はあなたの味方です

あなたが、病院に来てくれて嬉しかった
まさか、来てくれるとは思わなかったけど

あ、これは看護婦さんに打ってもらってる奴

あなたが、私に会いに来てくれた時に送ってもらうように頼んだメール

辛くなったら星を眺めなさい
延々と続く無数の星を

きっと夢はかなうの

悲劇のヒロインじゃなくて

あなたの人生はハッピーエンドになれるように

笑って胸を張れるように


あなたは、私のむすめです

大切な大切な…


私は、胸を張って言えます

亜紀は私の娘です
ってね

だから、あなたも威張って良いのよ
私の娘なんだから

これから、何が待ちうけてるか分からないけど
あなたは一人じゃないの

全て一人でこなそう何て思っちゃ駄目

感情で行動しても駄目


お母さんはあなたの事見守ってるから


お母さんは多分もう長くないと思うの
亜紀にちゃんと言いたかったな

ごめんね
ありがとう
って


ふがいないお母さんでごめんね

お母さんの娘として生まれてきてくれて
ありがとう


私は母からのメールに何故か暖かいものを感じた

こんなに人は優しかったんだ


何で私はあの時言ってあげれなかったの

私もお母さんの子供でよかったって

私は目頭が熱くなるのが分かった

ツーーーーー

私の目から一筋の涙が流れた

泣いたのは久しぶりだ

本当に

本当に・・・・


だが、私の瞳から流れたのは
たった一筋の涙だった


ドクン


ドクン

ドクン

心臓の鼓動がだんだん大きくなっていくのが分かる

「かっはぁ・・っっ」
息がうまく出来ない


「はぁはぁはぁはぁ・・・・」

何で

何で

私は胸を押さえつけられる感じがした


「ただいま」

その時充が帰ってくるのが分かった

「あ・・・亜紀!?亜紀!!大丈夫か」

充は慌てて近づいてきた

「み・・・つる・・・充・・・」

私は意識が無くなっていくのが分かった

「亜紀・・・!?亜紀!!」
充は私を抱き寄せている

そのおかげで私は倒れずにすんだ


だけど、もう私の意識はなくなっていた



聞きたかったの

おなたが私を愛してるかどうか

好きな人居るの・・・?

私は幸せな人生を送れるの?

いつも誰かに何かにこんな事を問いかける

幸せって気付かないことばかり


じゃぁ、私は今幸せ?


私は目を覚ました
一面真っ白い部屋

そして、あの独特の嫌なにおい
薬の・・・

私はゆっくりと起き上がり辺りを確認する

ベッドの横には充と幸の姿があった

二人はスヤスヤと眠っていた


私は幸の髪の毛に手をやる

「うーーーーん」
幸が小さな唸り声を上げる

「ん・・・ん」
「あ、充おきちゃった?」
充は幸の声でおきたのかは知らないが
目をこすって小さな唸り声を上げ伸びをした

「うん。おはよう。体の方は大丈夫?」
充は私の前髪を撫でながら聞く

「うん。大丈夫。私、どうしたの?」

「良く分からないけど・・・今日明日は様子を見るって」
「そう・・・」

「幸なんか、冷静だったよ」
「え?」

「あの時、亜紀が倒れた時、俺が慌てて抑えたんだよ
 そんで、亜紀は気絶・・・っていうの?
 まぁ、そんな感じで。
 オレどうして良いのかわかんなくなってたら
 幸がパパ電話しなー
 っていうんだよ。もう、ビックリ」

「そうなんだ・・・」

「幸はどんな時も泣かないから。偉いよね」
充はそういって幸の頭を撫でた

「そういえば、幸は小さい頃から一言も泣かないし
 わがままも言わないよね」
「うん。不思議だよなー
 駄々こねてもいい歳なのに
 じっと我慢するし」

「私の気持ちの表れかな・・」
私は小さくボソッと言った

「え?何?」

「なんでもないよ」
私は充に笑って答えた


聞くなら今しかない

ねぇ、充・・・・

「ねぇ、充」
私はゆっくりと充の顔を見る
「なに?」
充も私の顔を見る

「最近帰り遅いね」
私は目線をはずさずに聞く

「そうだね」
充はそのまま平然と答える

「彼女はどう?」
「彼女って?」

「佐藤幸」
私は見つめる
「そうだね」
充は平然と答える

「は・・・?!」
「別に隠してないでしょ
 聞かれてもないし
 まさか、出来ちゃうとは思わなかったし

 いまさら別れてなんていえないじゃん?」

充はフっと鼻で笑った

「それに、幸が居んじゃん」

「っざい・・・」

「はぁ?」

「うざい!!っつってんのよ
 あんたみたいな奴はいらない

 佐藤 幸のところに行きなさいよ」

私は枕を投げつける

ボス

「だりぃー
 お前、うざい

 全て自分が被害者だと思うなよ
 
 オレからしてみりゃオメーは大事なんだよ」
そう言って充は立ち上がった

「亜紀、体悪そうだし気をつけろよな

 じゃ、もうかえらねーけど」

そう言って病室から出て行った

「ままぁ・・・?」

幸が目をこすりながらおきる

「ごめんね、起こしちゃったね」
「うん。大丈夫、ぱぱはぁ?」
幸は周りをキョロキョロと探す

「パパは・・・居ないよ・・・」

「なんでぇ?」

「他の女の人のところ
 
 に行くようにママが言ったの」

どうしても、充を悪者にする事は出来なかった

イツモいつも笑っていてくれた充

優しかった充

心配性な充

一生懸命な充

最後の最後まで私を気遣ってくれてた 充

それでも、充が浮気をしていたことには変わりない

充は気付いてくれたかな・・・


あなたが、浮気をしてると知ってまで側に居たかった


私の気持ちを・・・


私は充の座っていたイスを眺めた

「そっかぁ、パパ居ないのかァ」
小さな小さな幸は必死で考えている

「ごめんね」
「なんでぇ?」
「ママがもっとしっかりしてたら・・・」

「ママは悪くないよぉ
 幸、パパも好きだけどママも大好き!」

幸はそういって笑って見せた

「まま、眠いよぉ」
幸はまたうつぶせになり大きなあくびをした

「おやすみ」

「おやふみぃい・・・」
幸はだんだん眠りに付いていった
少しすると幸から小さな寝息が聞こえてきた

「幸・・・」


ねぇ、充

私があなたを手放した理由わかる?
浮気してるって知ってたのに

それなのに離れなかった理由


あなたの事


愛してるから


まだ、私達は若いから

あなたは、これからの将来があるの

あなたの人生を

あなたの夢を手放さないで


ただ最後に聞きたかったのは

本当に愛してくれてたかどうかの真実


どうして、願えば願う程

苦しく悲しくなってくるの?

私はこれ以上恋をしちゃいけないの?


あなたを愛する事はいけないことなのでしたか?


私は、窓から見える無数の星空を眺める


そして、私はまた泣いた

何度も何度も声を殺して泣いた

あなたの幸せな未来


きっと叶いますように・・・・


私はドクンドクンと早くなる鼓動を押さえつけながら
それだけを考えた

あたしは・・・

幸を守ってみせる

私は幸を見た

ドクン


「あっっケホケホ」

一瞬心臓が止まったような感覚

やばい・・・・


ゲホ

ビチャ・・・

「え・・・?」
私が咳をした時


口から大量の血が出ていた

「ど・・・どういうこと」
私は慌てて近くのナースコールを押した



チカチカと確かにライトは点滅している


「うぇっっ!!」
私はまた血を出す

「ん。。。」
幸はゆっくりと目を開ける

「あっっ!!ま・・・ままぁ!?大丈夫!」
幸は目をキョロキョロとさせる

そしてライトが点滅しているのを見て

病室から出て行った

「さ・・・さち・・・」
私は

真っ白だった病院のベッドが段々赤くなっていくのが分かった

「うっっ!!」

私の手はもう血だらけだった


こんなにも、赤々しく
そして生暖かい

薬の匂いはいつの間にか
鉄の匂いに変わっていた

その時、

パタパタパタ
と小さな音がして看護婦さんが来るのが聞こえた

「大丈夫ですか?!」
シャっとカーテンを開け私を見る

「大変!」

「ママ!大丈夫?」

何故か看護婦さんは一人と言う事が気になった

「こちらに乗ってください」
そういうと、看護婦さんは隣にあった
台みたいなものに私を乗せてタオルをかける

そして私はゆらゆら揺れながら治療室へと向かっていった


「大丈夫ですか?」
医者らしい人が私の顔を覗き込むのが分かった

「あ・・・はい」

「そうですか」

私の顔をまた見るとカルテらしきものに何かを書き始めた

「血が出たのは今日ですよね?」
「は・・・はぁ・・・」
「何らかの病気だと思うんですけど」

そういって彼は首をかしげる

「原因不明なんです」

何故か私には死を宣告された気がした

「死ぬんですか?」
「いぇ、まだそうと決まったわけではないです」

彼は何かを言いたそうだった

「じゃあ・・・?」

「何しろ原因不明の病気ですし…」

「はぁ・・・」

私には分かる…


要は死んでしまうって事だろう


私は大きくため息をつく

「幸は・・・?」

「あぁ、あの子ですか?あの子に感謝してくださいよ」
そう言うと彼はニコっと笑った

「あの子、近くを見回りしてた看護士に声をかけたらしいんです

 ママを助けてって
 たまたま、確認所では他の患者さんを診てたもので
 人が居なかったんですよ」

「そうなんですか・・・」

「立派な子ですね」

私は彼に病室まで送ってもらった

私が今度入るところは先ほどとは違って
一人部屋だった

昔来た事があるような…


母親が最後に入院してた場所とどうしてもかぶってしまった


「あ・・・」
「どうかしましたか?」

「あ・・・・いえ・・・」
私は下を向きながらその部屋に入っていった


私は、死んでしまうのだろうか・・・?




「まま?」
幸が私の顔を覗き込む

「なぁに?」

「まま暗い顔してる、幸ね今日保育園で
 絵本書いてきてあげたのぉ」

幸はそう言って鞄からノートを取り出した

「どれどれ??」

私は幸からもらった本を手に取る

題名はママ



最近ママは元気が無いようです
幸はママの事大好きだから心配です

でも、幸はママに何も出来ません

幸は知ってます

ママがこっそり夜泣いていたのを

パパが居なくなっちゃった日に

ママは目を真っ赤にして「おはよう」って

幸に言います

だけど、幸は分かってるの


ママは悲しいんだって

だけど、幸は何も出来ないの



幸ね、分かったんだ

幸、泣かないよ

だから、ママが泣きたくなったら我慢しなくて良いんだよ

幸が泣かないで居てあげるから


もしもね、ママが笑えないなら

幸が笑っててあげるの


ママの側で

ママ


ママはいつも一人ぼっちじゃないんだよ

幸がずっと手をつないで居てあげる


だから、ママはこれ以上無理しちゃ駄目だよ

目が真っ赤に腫れちゃっても

幸は笑っててあげるから


ママは頑張らなくても良いんだよぉ

そして、最後に幸と私が手をつないでる絵が書いてあった

小さな小さな幸の字は

汚い字だったけど

暖かく



優しい字だった


幸・・・
私は幸がくれた本を胸に抱き寄せた

幸は私が読み終わったのを見て布団に顔をうずめた

「幸、ありがとう」

私は幸を見つめなおした

「ママーーー」

幸はニコニコ顔で私に抱きついてきた

「幸ーーー」


私はこれが幸せだという事に気付いた

ただ単に幸は幸せにはさせない

そんな事を思っていた


だが、幸は私のことをすごくよく考える

こんなに小さな子供なのに・・・

私の目からまた涙が流れた

「ママ、我慢しなくて良いんだよ」

そして幸はニッコリと笑った


「山川さん、大変です!!」
ガチャっと音がしてドアが勢いよく開く

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
若い看護士さんはぜぇぜぇ言っている

「ど・・・どうしたんですか?」
私は涙をぬぐい慌てている看護士さんに聞く

「おっ・・・大野充さんが!!」



看護士さんはのどを詰まらせる


なに・・・充がどうかしたの・・・?




「先ほど、事故にあって亡くなられました・・・」


看護士さんの声が私の頭でこだまする

「は・・・?」

「さきほど、この病院に来たんですけど・・・」

「ままぁ・・・?」
幸は服のすそを引っ張っている

「ど・・・どういうことなんですか!!!!!」
私は思い切り叫ぶ


「なんで・・・なんで充が?!」
私はふらつく足取りで看護士さんの元に歩み寄る

「なんで・・・なんで・・・」

「落ち着いてください!取り合えず、これますか?」

看護士さんがふぅと一息つき私の肩を持つ


私は、うわ言の様に

充の名前を呼ぶだけだった



そして、そのまま連れて行かれた

私は、どうして良いのか分からずに居た

「ままぁ?パパどぉしたのぉ?」
幸は不思議そうに聞く

「えっと・・・山川さんこちらへ」
医者らしき人が誘導する

奥の部屋へと

「幸はここに居てね」

「・・・わかったぁ」
幸は渋々ながらも頷いた

「まま、早くねぇ」
そういうと幸はクルクルといすを回し始めた
「幸ちゃん、お姉ちゃんと遊んでいようね」
先ほど言いに来てくれた若い看護士さんがそう言った

「ありがとうございます」
私は小さく会釈をしてお医者さんの後を続いた

「間違いありませんか?」

部屋にはポツンと中央にベッドが置かれているだけで
他は殺風景で窓すらなかった

そして、ゆっくりと顔にかぶせてあった布をどかした


そこには、大分青味がかった充の顔があった



「っっ!?」

私は声にならない声を上げる


「っっ・・・はい」
私は声を詰まらせる

「大丈夫ですか?」
医者は私の顔を見る

「一人に・・・させて・・・ください・・・」
私がそう言うと黙って部屋から出て行った


バタン

私はドアの音がしたのを聞いて一人で立ちすくんだ

どうして充が?

私の頭の中にはそれしかなかった


私の気持ち分かってくれたの
ねぇ、充・・・

私が言いたかった事


本当に本当に充が好きだって事


充が私の全てだってこと


大切なものは無くなってから気付く










こんな事になるのならあなたの最後の彼女は
私が良かった

あなたを私のものにしたかった


何で私は信じてあげられなかったの?



私はひざを付き充のベッドに顔をうずめて
大きな声で泣いた


「ああああああああああああああ!」

私にはそんな声しか出せない


カサ
充のポケットから紙の音が聞こえた

私はゆっくりと手を入れ紙を取り出した


亜紀へ

もしかすると、これが最後の手紙になるのかもしれない

オレの彼女は、亜紀と幸だよ
本当に

浮気していたのは事実なんだ

それは・・・まぁ言ったら言い訳にしか聞こえないけど

亜紀がオレの事を見てくれないから

しょうも無い理由だよね

それでも、幸とは何もしてないしキスもしてない


オレには最初っから亜紀さえ居れば良かったんだよ

今、気付いた


亜紀の事

そして、俺等の子供幸の事
二人で一緒に守ろうよ

今更だけど

結婚しよう


結婚指輪もちゃんと用意したから
心配すんなよ

Sincerely, it is sworn to keep loving you.

なーんちってちょっとくさいかな

心から、あなたの事を愛し続けることを誓います


充より


その手紙には婚姻届が挟まっていた

そして、記入欄に大野充と記入されていた


充の気持ちは本気だった

私は充の気持ちを分かってあげられなかった


こんなにも悲しいのは

充の事を愛してるからだと思う

こんなに人を好きになれるってこと

幸せなんだろうけど


私にはこれからの幸せは無い




あなたは、私に何を求めていたの?

私はあなたの口から直接聞きたかった


恥ずかしがり屋で
意地っ張りで
頑固で

純粋で
幼くて
馬鹿で
しょうもなくて

だけど、


誰よりも私の事を愛し続けてくれて

私の事だけ見つめてくれて

私の全てを好きになってくれた


私は自分のふがいなさに心を打たれた

「充・・・充!!
 こんなの嫌だよ。最後まであたしを見て
 幸せって言ってよ!!!
 ゴメンねじゃなくて愛してるって
 飽きるまで、嫌になるまで
 ずっと・・・ずっと言って
 あたしは充が幸せにならなきゃ嫌だよぉ」

私は本当に子供みたいにワンワンと泣き始めた

私は小さくたたまれた婚姻届を胸に抱き寄せた


ねぇ、充
充は今笑っていますか?

幸せでしたか?

あなたの人生は



幸せでしたか?

私は放心状態の中イスに座らせられた

「それで、大野さんの事故の事なんですが」

私の頭にゆっくりと入っていった



「こちらの病院に来る途中で大型トラックと衝突してしまい
 こちらに運ばれました

 かなりの重体でした

 それでも、彼はずっとあなたの名前を呼んでました

 亜紀に、亜紀に
 ってずっとうわごとのように繰り返してました


 そして、なくなられる寸前奇跡が起きたんです

 彼が目を閉じたまま

 亜紀に伝えて欲しい事があるというんです」


彼は両手を合わせ祈るポーズをとった

私の目をゆっくりと見て


「幸せにしてあげられなくてごめんな
 世界で一番幸せにしてあげられなくてごめん・・・幸せになってって」

私は思わず涙が出てきた

その瞬間の彼が私の脳裏に想像することが出来た



「そして、涙を流して息を引き取られました」

私は流れる涙を抑える事は出来なかった


私達は幸せだった

あなたの側に居れて私は幸せでした

今更そんな事を言わせないでください



まるで、幸せじゃなかったかのような



ねぇ、聞いてる?充
私は心の中に問いかける


私充と一緒に居れて幸せだったよ


充が側に居て笑ってくれるだけで

三人で仲良く暮らしてた頃に戻りたいよ


辛いけど楽しかった

それが、幸せだった




本当に、充は幸せだった?



幸せだったよ
亜紀と幸の三人で暮らせて
短い期間だったけど

ありがとう


私の目の前には涙をいっぱい溜めながらも
笑っている充の姿が見えた

それが幻覚でも何でも良い

充は幸せだったんだよね




ありがとう


私は先生の話を聞いた後もう一度充の元へといった


今度は幸をつれて

「幸、パパね。今寝てるの」
私は顔のタオルをどけた

「パパなんでおねんねしてるの?」
幸はだらりと垂れ下がった充の腕を触る

「パパ、暖かいよ」
幸は自分のほっぺたにその手を当てる

「うん。パパ暑がりだからね」

「目ぇ覚まさないの?」
幸は私の元に来てそう聞く

「うん。分からないな、もう覚まさないかもしれない」
「幸が笑ってたらおきてくれるの?」

幸はそう聞いた
「そうだね、幸が頑張ってたら…きっと」

私はさっき幸が触れていた腕に触る

その手は暖かくだが生気を感じさせない腕だった

「パパいつもより冷たいね」
私が幸にそう聞く、幸は手を握る

「パパ、死んじゃったの?」
幸がそう聞く

「なんで・・・?」

「本でね、読んだの。冷たいお手ては死んでるんでしょぉ」
幸は手をパンパンとたたいた

「そうかもね。。。」

幸はそのまま無言で充の姿を見つめた

今にも起き上がって

これはドッキリでしたって言いそうな
まだ、死んだなんて認めたくない


「幸が悪い子だったから・・・?」
幸は両手でスカートのすそを掴みながら下を向く

「そんな事無いよ」
私はしゃがんで幸と同じくらいの目線で見た


「幸が、もっと良い子だったら、良かったのに」

幸はギュっと唇をかみ締めている


「パパ、ごめんね」
幸は充の手を掴む

「幸は悪い子じゃないよ」
私は何だかその光景が胸を苦しくさせた

幸がこんなに苦しんで

幸は悪くないのに


「幸泣かない」
急にクルリと振り返りそう言った

「なんで・・・?」

「パパと約束したしママともしたから」

幸はそう言って笑おうとした

「ママ、行こう」
幸は私の洋服のすそを小さく引っ張った

「うん。」

私はもう一度充の姿を見た


「ありがとう」

あなたに届きますように


私は幸と手をつなぎながら病室へと戻った

先ほど戻るように言われたのだ


私達の手は暖かく充の暖かさも加わっていた


「ママぁーママは・・・」
幸はそこで言うのをやめた

「なぁに?」
私はベッドに座る幸を見ずに戸棚の整理をしていた

「居なくならないよね」
小さな幸の小さなわがまま

私は手に持っていたプラスティック製のコップを落としてしまった


カン

乾いた音が病室に響く
窓からは心地よい日差しが差し込んでいるところだった

「な・・・何言ってるの!?」
私は動揺していないように落ちたコップを拾い幸を見る

「居なくなんかならないわよ」

私はコップを持ちながらもうつむき加減の幸を見る
幸の前髪をゆっくりとなでると幸はゆっくり顔を上げた

「ママ幸の側に居てね」
幸はにっこりと笑った

私もにっこりと笑い水道にコップを置いた


カコ

ふと、自分の視界が真っ暗になるのが分かった

「幸、大丈夫?」
私は幸が居るであろう方向を向く

「まま?幸ここだよ」
そういって幸は私に抱きついた

「幸、暗くなっちゃったね。よく来れたね」
私は手を出す、その間に幸が入ってくる

「暗くないよ、ママ」
幸は私に抱っこされながら言う

「え?でも、ママ見えないよ」

私は自分の視界に何も見えない事に不安を感じた

「さ・・・幸、先生を呼んできて・・・」

私はゆっくりと幸を下ろした
手が震えてるのが分かる

「う・・・うん!!分かった」
幸はパタパタパタと音を立てて消えていった

私はゆっくりとその場にしゃがみこんだ


何も見えない


私の不安は高まるばかりだった


私の病気は何なの・・・?


私はそのまま手術室へと向かった

「大丈夫ですよ」

チクっと針の痛みがするのが分かった

だんだん眠くなってくる

麻酔が効いてきたのだろうか


私は重くなる瞼を必死でこじ開けようとした


コメント

廣田 幸彦 さんのコメント

お世話になります。廣田です。クラーロブログ、クラーロ通信、楽しく読まさせてもらってます。クラーロ通信で、ポルシェに関したことを書かれるそうなので、楽しみにしています。更新がんばってください。
07/05/09 22時45分21秒

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07/04/30: 鏡の法則

この文章はある方のブログに掲載されていたものです。

この記事には驚くほどの反響があったそうです。

その記事とは、息子さんがいじめられて悩む主婦A子さんと、不思議なコンサルタントB氏のお話です。

実話にもとづくお話。

A子さんはB氏のサポートを得て、最大の悩みを解決するばかりか、人生で未完了だった問題(宿題)に気づき、人間的に大きく成長されます。

このストーリーに感動し、優しくなられた方々が私の周りに多数いらっしゃいます。

皆様に少しでも幸せの輪が広がりますように!と、お祈りしつつ、このストーリーをお届け致します。


(このお話は実話ですが、登場人物の職業などを多少変え
てストーリーを設定しています)



A子(主婦、41歳)には悩みがあった。
小学校5年生になる息子が、学校でいじめられるのだ。
いじめられるといっても、暴力まではふるわれないらしい。
友達から仲間はずれにされたり、何かあると悪者扱いされた
りすることが多いようだ。息子は、「いじめられてるわけじゃ
ない」と言い張っているが、息子を見ていると、寂しそうな
ので、A子は胸が痛むのだ。

息子は野球が好きなのだが、友達から野球に誘ってもらえな
いので、学校から帰ってきたら一人で公園に行って、壁と
キャッチボールをしている。2年くらい前には、息子が友達
といっしょに野球をしていた時期もある。当時のことなのだ
が、A子が買い物の帰りに小学校の横を通りかかったとき、
グランドで息子が友達と野球をしていた。息子がエラーをし
たらしく、周りからひどく責められていた。

チームメイト達は、容赦なく大きな声で息子を責めた。
「お前、運動神経がにぶ過ぎだぞ!」
「お前のせいで3点も取られたじゃないか!」
「負けたらお前のせいだぞ!」
A子は思った。
「たしかに息子の運動能力は高くない。しかし、息子には
息子のいいところがある。とても心が優しい子なのに。」
A子は、自分の息子のいいところが認められていないことが、
悔しかった。そして、ひどいことを言うチームメイト達に対
して、自分の息子が笑顔で謝っているのを見るのが辛かった。

その後まもなく、息子は野球に誘われなくなった。
「お前はチームの足を引っぱるから誘わん」と言われたらし
い。息子にとって、野球に誘ってもらえないことが、一番つ
らいようだ。A子へのやつ当たりが目立って増えたことから
も、それがわかる。
しかし息子は、辛さや寂しさを決して話してはくれなかった。
A子にとって一番辛いのは、息子が心を開いてくれないこと
だった。
「僕は平気だ」と言い張るばかりなのだ。
A子が、「友達との上手な関わり方」を教えようと試みても、
「うるさいな!ほっといてよ」と言ってくる。
「転校しようか?」と持ちかけた時は、「そんなことをした
ら、一生うらむよ!」と言い返してきた。

息子の状況に対して、自分が何もしてやれないことが情けな
く、A子は無力感に陥っていた。そしてある日、学校から帰
宅して公園に行ったばかりの息子が、不機嫌な顔で帰ってき
た。「何があったの?」と聞いても、「何もない」と言って
教えてくれない。

真相は一本の電話で明らかになった。
その夜、親しくしているご近所の奥さんから電話がかかって
きたのだ。
「A子さん、○○○君(A子の息子の名前)から、何か聞い
てる?」
「えっ?いいえ」
「今日、公園でうちの下の子どもをブランコに乗せていたの
よ。○○○君は、いつもの壁にボールを投げて遊び始めたわ。
するとね、○○○君のクラスメイトらしい子たちが7、8人
くらいやって来てね、『ドッジボールするからじゃまだ!』
って○○○君に言うのよ。しかも、その中の1人がボールを
○○○君にぶつけたのよ。○○○君、すぐに帰っていったわ。
私としては、その場で何もできなくて、申し訳なかったと思
ってね。」

A子は愕然とした。
「そんなことを私に黙っていたなんて。」
そんなつらい思いをしていながら、自分に何も言ってくれな
いことが悲しかった。その日は、あらためて息子から聞き出
そうという気力も湧いてこなかった。

翌日、A子はある人に電話をかけることを決意した。
その人とは、夫の先輩に当たるB氏だ。
A子は、B氏とは話したこともないのだが、1週間前に夫か
らB氏の名刺を渡された。
B氏は、夫が高校時代に通っていた剣道の道場の先輩である。
夫も20年くらい会っていなかったらしいが、夫が最近街を
歩いていたら、たまたまばったりと出会ったということだっ
た。久々の再会に盛り上がって喫茶店に入り、2時間も話し
たらしい。B氏は、今は経営コンサルタントを仕事にしてい
るそうだ。夫の話では、B氏は心理学にも詳しく、企業や個人
の問題解決を得意としているとのこと。そこで夫が息子のこと
を少し話したら、「力になれると思うよ。」と言って名刺を
渡してくれたそうだ。

夫は、その日、「お前の方から直接電話してみろよ。話を通し
ておいてやったから」と、その名刺を渡してきた。
A子「どうして私が、そんな知らない人にまで相談しなきゃ
いけないの。あなたが直接相談したらいいじゃない。」
夫 「俺が心配なのは、お前のほうだ。○○○のことで、ずっ
と悩み続けてるじゃないか。だから、そのことをBさんに相談
したんだ。」
A子「私に問題があるっていうの?私が悩むのは当然よ!
親なんだから。あなたは一日中トラックに乗ってりゃいいん
だから気楽よね。実際に○○○を育ててるのは私なんだから
ね。あなたはいっしょに悩んでもくれない。そのBさんに相
談なんてしないわ。どうせその人も、子育てのことは何も分か
らないに決まってるわ。」
そう言ってA子は、その名刺をテーブルの上に投げた。

しかし、昨日の出来事(近所の奥さんから聞いた話)があっ
て、A子はすっかり落ち込み、わらをもすがるような気持ち
になっていた。
「こんな辛い思いをするのはイヤだ。誰でもいいから、助け
てほしい。」
そう思ったときに、B氏のことを思い出したのだ。
幸い名刺はすぐに見つかった。
息子が学校に行って1時間くらい経ったころ、意を決してB氏
に電話をかけた。その時A子は、その日に起きる驚くべき出来
事を、想像だにしていなかった。

受付の女性が出て、B氏に取り次いでくれた。
A子は自分の名前を告げたものの、電話に出てきたB氏の声が
とても明るかったので、「こんな悩み事を相談してもいいの
か?」という気持ちになった。次の言葉がなかなか見つからな
かったのだが、B氏のほうから声をかけてきてくれた。

「もしかして□□君の奥さんですか?」
「はい、そうなんです。」
「あー、そうでしたか。はじめまして。」
「あのー、主人から何か聞かれてますか?」
「はい。ご主人から少し聞きました。息子さんのことで悩ま
れてるとか。」
「相談に乗っていただいていいのでしょうか?」
「今1時間くらいなら時間がありますので、よかったら、こ
の電話で話を聞かせてください。」

A子は、自分の息子がいじめられたり、仲間はずれにされて
いることを簡単に話した。そして、前日にあった出来事も。
ひととおり聞いて、B氏は口を開いた。

「それは辛い思いをされてますね。親としては、こんな辛い
ことはないですよね。」その一言を聞いて、A子の目から涙
があふれてきた。
A子が泣き始めたのに気づいたB氏は、A子が落ち着くのを
待って続けた。
「奥さん、もしあなたが、本気でこのことを解決なさりたい
なら、それは、おそらく、難しいことじゃありませんよ。」
A子は、「難しいことじゃない」という言葉が信じられなかっ
た。自分が何年も悩んで解決できないことだったからだ。
だけど、B氏の言葉が本当であってほしいと願う気持ちも
あった。

「もし解決できるなら、何だってやります。私は本気です。
だけど、何をやれば解決するんですか?」
B氏「では、それを探りましょう。まず、はっきりしているこ
とは、あなたが、誰か身近な人を責めているということです。」
A子「えっ?どういうことですか?」
B氏「話が飛躍しすぎてますよね。まず理論的なことをじっく
り説明してから話せばいいんでしょうが、それをすると何時間
もかかるし、私もそこまでは時間がないのです。
なので、結論から話します。理論的には根拠のある話なんで、
後で、参考になる心理学の本など教えます。

結論から言います。
あなたが大事なお子さんを人から責められて悩んでいるという
ことは、あなたが、誰か感謝すべき人に感謝せずに、その人を
責めて生きているからなんです。」
A子「子どもがいじめられるということと、私の個人的なこと
が、なぜ関係があるんですか?何か宗教じみた話に聞こえます。」
B氏「そう思われるのも、無理もないです。われわれは学校
教育で、目に見えるものを対象にした物質科学ばかりを教えら
れて育ちましたからね。今、私が話していることは、心理学で
はずいぶん前に発見された法則なんです。昔から宗教で言われ
てきたことと同じようなものだと思ってもらったらわかりやす
いと思います。私自身は何の宗教にも入っていませんけどね。」

A子「その心理学の話を教えてください。」
B氏「現実に起きる出来事は、一つの『結果』です。『結果』
には必ず『原因』があるのです。つまり、あなたの人生の現実
は、あなたの心を映し出した鏡だと思ってもらうといいと思い
ます。例えば、鏡を見ることで、『あっ、髪型がくずれてい
る!』とか『あれ?今日は私、顔色が悪いな』って気づくこと
がありますよね。
鏡がないと、自分の姿に気づくことができないですよね。
ですから、人生を鏡だと考えてみて下さい。
人生という鏡のおかげで、私たちは自分の姿に気づき、自分を
変えるきっかけを得ることができるのです。
人生は、どこまでも自分を成長させていけるようにできているのです。」

A子「私の悩みは、私の何が映し出されているのですか?」
B氏「あなたに起きている結果は、『自分の大切なお子さん
が、人から責められて困っている』ということです。
考えられる原因は、あなたが『大切にすべき人を、責めてし
まっている』ということです。感謝すべき人、それも身近な
人を、あなた自身が責めているのではないですか?一番身近な
人といえば、ご主人に対してはどうですか?」
A子「主人には感謝しています。トラックの運転手として働い
てくれているおかげで、家族が食べていけてるのですから。」
B氏「それは何よりです。では、ご主人を大切にしておられま
すか?尊敬しておられますか?」
A子は、「尊敬」という言葉を聞いたときに、ギクッとした。
A子は、日ごろから夫のことを、どこか軽蔑しているところが
あったからだ。A子から見て、楽観的な性格の夫は、「思慮の
浅い人」に見えた。
また、「教養のない人」にも見えた。
たしかに、A子は四年制の大学を卒業しているが、夫は高卒である。
また、それだけではなく、夫は言葉ががさつで、本も週刊誌く
らいしか読まない。読書が趣味のA子としては、息子に、「夫
のようになってほしくない」という思いがあったのだ。
A子は、そのこともB氏に話した。

B氏「『人間の価値は教養や知識や思慮深さで決まる』と思っ
ておられますか?」
A子「いえ、決してそんなふうには思いません。人それぞれ強
みや持ち味があると思います」
B氏「では、なぜご主人に対して、『教養がない』ことを理由
に軽蔑してしまうんでしょうね。」
A子「うーーーん。私の中に矛盾がありますね。」
B氏「ご主人との関係は、どうなんですか?」
A子「主人の言動には、よく腹が立ちます。喧嘩になることも
あります。」
B氏「息子さんの件で、ご主人とはどうですか?」
A子「息子がいじめられていることは、いつもグチっぽく主人
に言っています。ただ、主人の意見やアドバイスは受け入れら
れないので、主人にちゃんと相談したことはありません。おそ
らく、私にとって主人は、一番受け入れられないタイプなん
だと思います。」

B氏「なるほど。もう一つ根本的な原因がありそうですね。
ご主人を受け入れるよりも前に、そっちを解決する必要があります。」
A子「根本的な原因ですか?」
B氏「はい、あなたがご主人を受け入れることができない根本
的な原因を探る必要があります。ちょっと伺いますが、ご自分
のお父様に感謝しておられますか?」
A子「えっ?父ですか?そりゃもちろん感謝してますが・・・」
B氏「お父様に対して『許せない』という思いを、心のどこか
に持っていませんか?」

A子は、この「許せない」という言葉にひっかかった。
たしかに自分は父を許していないかもしれない、そう思った。
親として感謝しているつもりであったが、父のことは好きにな
れなかった。
結婚して以降も、毎年の盆・正月は、実家に顔を見せに家族で
帰っている。
しかし、父とは、ほとんど挨拶ていどの会話しかしていない。
思えば、高校生のころから、父とは他人行儀な付き合いしかし
てこなかった。

A子「父を許してないと思います。だけど、父を許すことはで
きないと思います。」
B氏「そうなんですね。じゃあ、ここまでにしますか?お役に
立てなかったとしたら、申し訳ありません。それとも、何か
やってみますか?」
A子「私の悩みの原因が、本当に父や主人に関係しているんで
しょうか?」
B氏「それは、やってみたらわかると思いますよ。」
A子「わかりました。何をやったらよいか教えてください。」
B氏「では、今から教えることをまずやってみてください。
お父様に対する『許せない』という思いを存分に紙に書きな
ぐって下さい。怒りをぶつけるような文書で。
『バカヤロー』とか『コノヤロー』とか『大嫌い!』とか、そ
んな言葉もOKです。具体的な出来事を思い出したら、その出
来事も書いて、『その時、私はこんな気持ちだったんだ』って
ことも書いてみてください。恨みつらみをすべて文章にして、
容赦なく紙にぶつけてください。気がすむまでやることです。
充分に気がすんだら、また電話下さい。携帯の番号も教えてお
きます。」

A子にとって、そのことが、息子の問題の解決に役立つのかど
うかは疑問だった。しかし、それを疑って何もしないよりも、
可能性があるならやってみようと思った。
A子は、「今の悩みを解決できるなら、どんなことでもしよ
う」と思っていた。それに、B氏の話には、根拠はわからない
が、不思議な説得力を感じた。

A子は電話を切ると、レポート用紙を持ってきて、父に対する
思いを、思いつくままに書き始めた。

自分が子どものころは、なにかと口やかましい父だった。
夕食が説教の時間になることも多かった。
また、子ども達(A子と兄弟)が自分の思い通りにならない
と、すぐに大声で怒鳴りつける、そんな父だった。

「お父さんは、私の気持ちなんか興味ないんだ!」と、そう思
うことも多かった。お酒を飲んだ時に、仕事のグチを言うとこ
ろもイヤだった。また、建設会社で現場監督をしていた父は、
砂や土で汚れた仕事着で帰って来て、そのまま食事をすること
が多かったが、それもイヤだった。

A子は、父に対しての気持ちを文章にしていった。
気がついたら、父に対して「人でなし!」とか「あんたに親の
資格なんかない!」とか、かなり過激な言葉もたくさん書いていた。
ある出来事も思い出した。
自分が高校生のころ、クラスメイトの男の子と日曜日にデート
をしたことがあった。その男の子と歩いているところを、たま
たま父に目撃され、後で問いただされて説教されたことがあった。
両親には、「女の子の友達と遊ぶ」と嘘をついていたのだが、
父はその嘘を許せないようだった。その時の、父の言葉は今も
覚えている。
「親に嘘をつくくらい後ろめたい